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パンとシュリンクス (Pan and Syrinx) 1620年頃
173×136cm | 油彩・画布 | ブリュッセル王立美術館 |
17世紀フランドルの巨匠ヤーコブ・ヨルダーンスの描く裸婦像の典型を示す代表的作例のひとつ『パンとシュリンクス』。本作にはオウィディウスの≪転身物語≫に典拠を為す、主神ゼウスの伝令使ヘルメス(又は主神ゼウス)とカリスト(又はペネロペ)の間に生まれた音楽家であり牧場又は羊や山羊の神とされるパン(山羊の脚と小さな角をもつ)が、ニンフのシュリンクスに恋をした場面から始まり、必死に彼女を追いかけるがシュリンクスは逃げ、ラドン川岸に着いたとき川を渡れないと絶望したシュリンクスが他のニンフたちに自分を葦に変身させてくれるよう願い、葦へと姿を変えるも、パンがその葦を切り葦笛シュリンクスを作ったとする≪パンとシュリンクス≫の場面が描かれている。本作強い明暗対比によって印象的に描かれるシュリンクスの豊潤な肉体表現は、師ルーベンスから受け継いだヤーコブ・ヨルダーンスにおける女性描写の典型的な特徴を示している。また画面内へ描かれる子供たち(一方は松明を手にする)や顎髭を生やした男は、他のニンフやパンの奏でる音楽に興じていたサテュロスを始めとし様々な解釈がされているも確証は得ていない。なお牧場又は羊や山羊の神とされるパンはしばしば牧歌詩人たちに崇拝された神として扱われるも、パニック【panic】の語源に由来するよう、時には恐神として扱われることもある。
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