Description of a work (作品の解説)
2010/05/18掲載
Work figure (作品図)
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ドヴォーセ夫人の肖像

 (Madame Devauçay) 1808年
76×59cm | 油彩・画布 | コンデ美術館(シャンティイー)

フランス新古典主義の大画家ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングル初期を代表する肖像画作品『ドヴォーセ夫人の肖像』。アングルが『皇帝の玉座のナポレオン』をサロン出品した際に酷評を受け、失意の内に訪れたローマの地で制作された本作は、ローマ法王庁に派遣されていたフランス大使シャルル・アルキエの愛人とされる≪ドヴォーセ夫人≫をモデルに手がけられた肖像画作品である。画面中央へ配されるドヴォーセ夫人は背もたれの赤い曲線の優美な椅子に柔らかく腰掛け、顔面は真正面から、身体やや斜めに構えた姿勢で捉えられている。薄く口角を上げ、観る者へと真っ直ぐに向けられる瞳の深遠な輝きは、ほぼ左右対称に分けられた頭髪や、凛とした眉と共にドヴォーセ夫人の知性を感じることができる。さらに黒髪と合わせるかのようなドレスの深い色彩は天鵞絨(ベルベット)風の質感に程よい品位を与え、また衣服や首飾りの色彩とドヴォーセ夫人の白い肌や大きな金色のショールとの色彩的対比を生み出している。そして左手には指輪、右手には豪奢な扇子と細い腕輪が緻密な筆捌きで丹念に描き込まれている。そして何より本作で注目すべき点は、これらの描写が明らかに長すぎる左腕の不自然さを消している点にある。左腕のみに注目し、右腕や全体と比較すると変異的な右腕の長さに気がつくことができるものの、黄金のショールで左腕を隠し、また左半身を前斜めに向けて描くことで全体のバランスを整えていることがよくわかる。さらに陰影に乏しい黒色の衣服や対角的に描き込まれる丸みを帯びた赤い椅子によって、不自然さの隠蔽に成功している。このような理想美の追求のために構造的な違和をも用い、さらにそれを見事に調和化させる表現手法や写実的描写には、アングルの類稀な画才と絵画的革命性を感じずにはいられない。


【全体図】
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口角を上げ真っ直ぐ観る者へと向けられる視線。画面中央へ配されるドヴォーセ夫人の薄く口角を上げ、観る者へと真っ直ぐに向けられる瞳の深遠な輝きは、ほぼ左右対称に分けられた頭髪や、凛とした眉と共にドヴォーセ夫人の知性を感じることができる。



【観る者へと向けられる視線】
右腕の不自然な長さを覆い隠す金色のショール。左腕のみに注目し、右腕や全体と比較すると変異的な右腕の長さに気がつくことができるものの、黄金のショールで左腕を隠し、また左半身を前斜めに向けて描くことで全体のバランスを整えていることがよくわかる。



【右腕を覆い隠す金色のショール】
高度な写実的描写で描かれる扇子。理想美の追求のために構造的な違和をも用い、さらにそれを見事に調和化させる表現手法や写実的描写には、アングルの類稀な画才と絵画的革命性を感じずにはいられない。



【高度な写実的描写で描かれる扇子】

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