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風景の中のヴィーナス(Venus in einer Landschaft)1529年
38×29cm | Oil on panel | Musee du Louvre, Paris |
ルーヴル美術館が所蔵するクラナハ作品の中でも特に有名な作品のひとつ『風景の中のヴィーナス』。このイタリア・ルネサンスから学んだエロティックに表現される裸婦像を描く口実としてクラナハは、神話に基づく題材、とりわけヴィーナス、ヴィーナスとキューピッド、バリスの審判、クルレティアなどの主題で描いており、本作のその典型作と呼べる。肉体表現的に(少女のような)細身の身体で描かれる本作の美の女神ヴィーナスは、悪魔的とも形容できるほど妖艶でエロティックな表情を浮かべ、観者と対峙している。これらは画家の裸婦像、とりわけヴィーナスの表現において特に重要な(表現様式的)特徴のひとつであり、観る者を強く魅了する。また背景にみられる細密描写は初期ネーデルランド絵画様式に由来する伝統的技法であり、クラナハの卓越した(描写的)技量を感じさせる。本作を含むクラナハが手がけたヴィーナス像は、単に美的要因が重要視されるだけではなく、美術史における裸婦像の表現のひとつの様式として今も重要な位置に付けられている。なおヴィーナスを単独に描いた裸婦像は本作のほか、カナダ国立美術館、ヘルツォーク・アントン・ウルリヒ美術館が所蔵している。
関連:『ヴィーナスとキューピッド』
(82×55cm | 油彩・板 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー)
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