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キリストの磔刑 (The Crucifixion) 1630-1632年
400×245cm | 油彩・画布 | リール美術館 |
稀代の才能を示した17世紀フランドル絵画の巨匠ヴァン・ダイクが描いた代表的な宗教画のひとつ『キリストの磔刑』。本作に描かれるのは、自らユダヤの王と名乗り民を惑わしたという罪状で受難者イエスがユダヤの司祭から告発を受け、罪を裁く権限を持つ総督ピラトが手を洗い、自身に関わりが無いことを示した為、ゴルゴダの丘で2人の盗人と共に磔刑に処された教義上最も重要視される場面のひとつ≪キリストの磔刑≫で、磔刑に処される受難者イエスに示される内面を重要視した深い精神性を携える人物表現、聖母マリアやマグダラのマリアに示される悲壮と激情に満ちた激しい感情表現、場面を印象的に映す幻想性に富んだ光と闇による背景描写などは、巨匠ヴァン・ダイクの宗教画におけるひとつの頂点を示している。中央よりやや左部へ垂直に配される白々とした肉体の受難者イエスに呼応するように、中央よりやや右部へ光に照らされる雲谷を配することで、本作の構図展開において絶妙なバランスを取っている。また本構図によって左部分に受難者イエス、右部分に聖母マリアとマグダラのマリア、聖ヨセフという特徴的な人物配置が可能となり、師ルーベンスに順ずることのない画家独自の場面展開を示すことに成功しているのである。
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