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エルミニアと牧童たち (Herminia y Los Pastores) 1690年頃
238×257cm | 油彩・画布 | マルレ公爵家財団(トレド) |
17世紀ナポリ派の巨匠ルカ・ジョルダーノが1690年代初頭に手がけたの作品群のひとつ『エルミニアと牧童たち』。シチリア王国副王サンティステーバン侯爵ドン・フランシスコ・ベナビーテスのために制作された作品群の中の一枚である本作に描かれるのは、バロック期に活躍したイタリアの叙事詩人トルクァート・タッソ(1544-1595年)が1575年に手がけた叙事詩の傑作≪解放されたエルサレム≫の第7歌-1章句に記される、アンタキア(アンテオケ)の王女エルミニアが、恋するキリスト教騎士タンクレディと、タンクレディの亡き恋人クロリンダに嫉妬し、一度は捨てたアンタキアの民の元へと戻った後、騎士タンクレディの武具を盗み、ポリフェモから逃れる途中で牧童(羊飼い)らと出会う場面≪エルミニアと牧童たち≫である。ルカ・ジョルダーノ独特の甘美性を漂わせた劇的な場面表現や登場人物の豊かな感情表現、印象的な光彩描写などは秀逸の出来栄えを示し、特に騎士タンクレディの武具を身に纏う王女エルミニアの美麗な姿や、驚き奏楽を止める牧童らの躍動的な表現、それとは対照的な画面下部に配される動物らの穏やかで静的な運動性などは、本作の田園的な風景描写と見事に調和し、原作者トルクァート・タッソの詩情性と世界観をよく示している。
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