■ |
ネッソスの死(La muerte del cenauro Neso)1697-1700年頃
114×79cm | 油彩・画布 | プラド美術館(マドリッド) |
ナポリ派の巨匠ルカ・ジョルダーノがスペイン滞在時に制作した代表的な作例のひとつ『ネッソスの死』。本来は『火葬壇上のヘラクレス』、『ケファロスとプロクリス』、そして『ネッソスの死』と三枚一組の作品であったと推測されている本作に描かれるのは、古代ローマを代表する詩人オウィディウスの傑作≪転生神話(転生物語)≫の9:101-133を典拠する逸話で、ケンタウロスであるネッソスが、エウエノスの急流を先に渡る英雄ヘラクレスを目撃し、残されたヘラクレスの妻ディアネイラを連れ去ろうとするも、それに気付いたヘラクレスが急流を戻り、ヒュドラの毒を仕込んだ矢でネッソスを射ち、瀕死となったネッソスが己の衣服をディアネイラに与えようとする場面≪ネッソスの死≫である。本作に示される古典様式的な構図を用いながらも、ルカ・ジョルダーノ独特の明瞭で豊かな色彩表現や、ボローニャ派やフランスの画家らの影響を感じさせる遠景の描写は、画家が同時代に手がけた作品群の中でも見事な出来栄えである。本作では画面手前で必死に衣服を脱ぎ、ディアネイラへ与えようとする矢に射られ瀕死のネッソスや、それを手伝うディアネイラは、後期バロック様式特有の感受性で描かれた劇的な表現によって、観る者を強く惹きつける。また急流の奥から妻ディアネイラの下へと駆けつけるヘラクレスの表現も注目に値する。なお画面上部に配される鶏を手にする有翼の人物に関して、勝利の寓意とする説と嫉妬の寓意とする説が唱えられており、現在もその解釈については議論が続いている。
解説の続きはコチラ |