■ |
ミゲール・シッドのいる無原罪の御宿り
(La Inmaculada con el retrato de Miguel Cid) 1617年頃
160×109cm | 油彩・板 | セビーリャ大聖堂 |
16世紀後半から17世紀初頭のセビーリャにおいて、美術界を先導した画家フランシスコ・パチェーコを代表する作品『ミゲール・シッドのいる無原罪の御宿り』。パチェーコの手がけた作品の中でも特に人気の高く著名な本作に描かれるのは、神の子イエスの母である聖母マリアが、マリアの母(イエスの祖母)アンナの胎内に宿った瞬間、神の恩寵により原罪から免れたとする、最初は東方で唱えられ、神学者の間で盛んに議論された後、19世紀半ばの1854年にようやく法王庁より公認された教理で、聖三位の一位である神の子イエス、その聖器の聖母マリア、聖母マリアを生んだ母アンナそれぞれの関係性により、本作が制作された当時は公認されていなかった複雑な主題≪無原罪の御宿り≫である。本作には聖母マリアの頭上に輝く12の星々、純潔を表す若々しい乙女のような面持ち、胸のあたりで両手を合わせる動作、複数描かれる天使、偉大なる天上の力を表現した聖母マリアの背後の威光、足許の下弦の月、聖母マリアの象徴である椰子の木、薔薇、糸杉など画家が積極的に取り入れたイコノグラフィー的な展開が顕著に示されており、厳しい明暗対比による無骨で実直な本作の場面表現は、パチェーコ以降の画家が本主題を扱う際に多大な影響を与えた。また画面下部左端に描かれるのはセビーリャ出身の同時代を代表する詩人ミゲール・シッドで、多くの聖母礼讃詩を残したことが知られている。
|