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聖パウラが上陸するオスティアの港 1639-1640年頃
(Port d'Oside avec l'embarquement de sainte Paule)
211×145cm | 油彩・画布 | プラド美術館(マドリッド) |
フランス古典主義における風景画の巨匠クロード・ロランの代表作『聖パウラが上陸するオスティアの港』。本作と同じくマドリッドのプラド美術館に所蔵されている作品『川から救われるモーセのある風景』と対画である本作は、当時のスペイン国王フェリペ四世がマドリッドのブエン・レティロ宮のために注文し制作された装飾画8点の中の1点で、宗教的主題でありながら、理想化された情緒豊かな海景と陽光の表現は秀逸の出来栄えを示している。本作に描かれる主題は、ローマ出身の裕福な貴族で、夫の死後、正統的信仰・禁欲主義を擁護したダルマチア人聖書学者である聖ヒエロニムスに師事し、高い教養からベツレヘムで修道院指導し教会公認訳となる聖書のラテン語訳(ウルガタ)を完成させ、聖ヒエロニムスの有力な弟子となった聖女≪聖パウラ≫が、古代ローマの都市オスティアに上陸する場面≪聖パウラが上陸するオスティアの港≫で。この主題にした作例は他にあまりなく、本作は非常に珍しい主題を描いた作品である。本作の大気的な海景を包む陽光の壮大で詩情的な描写は、クロード・ロランの風景画様式の典型であり、本作はその表現において画家中期の作例の中でも、最も優れた作品のひとつとして知られる。また堅硬性と洗練性の両側面を感じさせる古代的な建築物の描写や、海上に反射する輝く光の表現、画面右部分の樹木にかかる湿潤な靄の独特な表現なども本作の大きな見所のひとつである。
関連:対画 『川から救われるモーセのある風景』
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