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クリュセイスを父親のもとへ送り届けるオデュッセウスのいる港の風景
(Port avec Ulysse rendant Chryséis à son père) 1644年
119×150cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ) |
クロード・ロランの代表作『クリュセイスを父親のもとへ送り届けるオデュッセウスのいる港の風景』。本作同様ルーヴル美術館に所蔵される『パリスとオイノネのいる風景』と対画であることが知られており、古代ギリシアの伝説的詩人ホメロスが手がけた叙事詩≪オデュッセウス≫と≪イリアス≫に範を取られる古代ローマの大詩人ウェルギリウスによる(全12巻から構成される)叙事詩≪アエネイス(前半1-6巻部分はオデュッセウスに、後半7-12巻部分はイリアスの投影が顕著に示される)≫に典拠を得て制作された作品である本作は、ギリシア軍に捕らえられていたトロイア王妃アンドロマケの親族の娘(巫女)クリュセイスが、アポロンの怒りによってギリシア勢に蔓延していた伝染病(アポロンの矢)を鎮めるために、クリュセイスの父親である神官クリュセースのもとへ返される場面が描かれている。本作は画家が1640年代に完成させた、所謂≪英雄的風景≫様式で描いた典型的な作品のひとつであるが、画面中央の帆船を中心として放射状に広がる陽光の描写や、遠洋海景部分(奥行き)の開放感とは対照的な左右の古代的建築物による閉塞的な構成、それらによる幾何的な空間性質を感じさせる構図や場面展開は、観る者の目を奪う画家の独特の特筆すべき表現であり、本作の最も大きな魅力のひとつでもある。
対画:ルーヴル美術館所蔵 『パリスとオイノネのいる風景』
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