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富のアレゴリー(富の寓意)
(Allégorie de la Richesse) 1634年頃
170×124cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ) |
17世紀フランスで活躍した画家シモン・ヴーエが手がけたフランス・バロックを代表する傑作『富のアレゴリー(富の寓意)』。おそらくはルイ13世の居城であったパリ近郊のサン=ジェルマン=アン=レーの城館シャトー=ヌフのために制作された本作に描かれるのは、世俗的な富に対する寓喩≪富のアレゴリー≫で、同じくシャトー=ヌフのために制作されたルーヴル美術館所蔵の『美徳のアレゴリー』、『慈愛のアレゴリー』との関連性も指摘されている。本作で左部に描かれる有翼の幼児は、世俗的な富の象徴である宝石や黄金などの貴金属を中央の有翼の女性に示しているも、女性は天を指差すもうひとりの(右部に描かれる)幼児を慈しむように抱いており、冷艶な視線だけを向けるだけである。この月桂樹の冠を被る有翼の女性の解釈は、17世紀初頭に刊行された象徴的文様・視覚的形象の図版集である(現在も美術研究において重要視される)チェーザレ・リーパ著『イコノロギア』に基づけば、美の象徴として扱われ、富の象徴とは異なるのも注目すべき点のひとつである。また一部の研究者からはシモン・ヴーエの妻をモデルとして描かれたとも推測されているも確証は得ていない有翼の女性にみられる豊潤で質感に富んだ女性像の描写は17世紀フランドル絵画の巨匠ルーベンスの描く女性像的印象を受けるものの、より洗練された優雅で清潔な雰囲気を醸しているほか、使用される色彩の絶妙な均衡感覚や、流麗で装飾的な表現は、この頃フランスで描かれたバロック様式作品の中で最も素晴らしい表現のひとつである。
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