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ひまわりを描くフィンセント・ファン・ゴッホ
(Van Gogh peignant des tournesols) 1888年
73×92cm | 油彩・画布 | ファン・ゴッホ国立美術館
後期印象派の巨人にして、フランス象徴主義も代表する画家ポール・ゴーギャンのアルル滞在期の作品『ひまわりを描くフィンセント・ファン・ゴッホ』。本作はゴーギャン同様、後期印象派を代表する画家
フィンセント・ファン・ゴッホに共同生活による制作活動を誘われたゴーギャンが、1888年10月23日から二ヶ月間滞在した南仏アルルで制作された作品である。当時のゴーギャンは描く対象の(自然主義的な)写実的表現を否定し、クロワゾニスムを用いて己の内面で見えるものを描くことを理念としていたことに対して、
ゴッホは本作に示されるよう対象(ここではひまわり)を置き、それを見ながら制作する方法を採用しており、この相容れない二つの芸術論は次第に二人の関係を悪化させ、独りになることを恐れた
ゴッホは嫉妬深くなり精神を病んでいく。そんな関係が続く中、ゴーギャンは本作を制作し、完成後に本作を見た
ゴッホは「これは確かに私だ。しかしこれは気が狂った時の私の姿だ」と述べ、本作が大きな要因のひとつとなって
ゴッホは自ら剃刀で耳を切り落とし娼婦ラシェルのもとへ届けるという有名な≪耳切り事件≫を起こして、ショックを受けたゴーギャンはアルルを去り、両者の共同生活に終止符が打たれた。画家の特徴的な高い視点によって描かれる本作の
ゴッホは、
ゴッホ自身が認めるよう、非常に陰鬱な雰囲気を感じさせる苦悩と孤独感に満ちた神経質な表情を浮かべている。この
ゴッホの姿はゴーギャンが感じた
ゴッホの姿そのものであり、画家の残酷なまでの(両者の間に生まれた決定的な亀裂の)真実性の描写は観る者の目を奪う。絵画表現としても、本作は空間的奥行きを感じさせない平面的描写、特に前景の
ゴッホやひまわり、画架以降の空間的平面性は、画家の様式的特徴を良く表している。