Description of a work (作品の解説)
2009/01/03掲載
Work figure (作品図)
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湖畔

 (The Lakeside) 1897年
69×84.7cm | 油彩・画布 | 東京国立博物館

近代日本洋画の父、黒田清輝が手がけた最高傑作『湖畔』。国の重要文化財に指定されている本作は1897(明治30)年、画家と後に黒田夫人(妻)となる金田種子(当時23歳。のちに照子と改名)が避暑として箱根の芦ノ湖を訪れた際、照子をモデルに芦ノ湖の湿潤な情景を描いた作品で、黒田清輝の最も世に知られる作品としても著名である。現在残される照子の証言によれば、脚の湖畔の岩に腰掛ける夫人の姿を目撃した清輝が「よし、明日からそれを勉強するぞ」と興趣を覚えて下絵も描かずに取り組んだとされている。画面前景に団扇を右手に持ち浴衣を着た照子夫人の岩に腰掛ける姿が描かれており、やや異国的な雰囲気を醸し出す夫人は遠くを見るかのような眼差し画面右側へ向けている。そして中景には悠々とした静かな芦ノ湖がしっとりと描写されており、遠景には小高い山々が広がっている。本作の最も注目すべき点は日本の高地の夏を感じさせる大気的な表現にある。平滑な筆触によって淡彩的で薄白的な色彩を画面に敷いたかのような水彩的な描写からは、日本の夏独特の湿度の高い空気を明確に感じることができ、画面全体を包み込む飽和的な空気の水分が本作の瑞々しく清潔な色彩や照子夫人の嫋やかな雰囲気と見事に呼応している。これこそ黒田清輝が本作で取り組んだ日本独自の洋画表現そのものであり、だからこそ今も我々日本人の心に深く染み入るのである。また本作の画面構成に注目しても、しばしばスナップ・ショット的と形容される対象の自然的な瞬間を捉えた写真的な構図も秀逸の出来栄えを示しており、観る者を本作の世界観へと無理なく惹き込むのである。なお本作は制作された1897年に開催された第2回白馬会展に『避暑』という名称で出品されたほか、1900年のパリ万博へも出品されている。


【全体図】
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遠くを見つめる後の黒田照子夫人。国の重要文化財に指定されている本作は1897年、画家と後に妻となる金田種子(当時23歳。のちに照子と改名)が避暑として箱根の芦ノ湖を訪れた際、照子をモデルに芦ノ湖の湿潤な情景を描いた作品である。



【遠くを見つめる後の黒田照子夫人】
団扇を手にする夫人の嫋やかな姿態。画面前景に団扇を右手に持ち浴衣を着た照子夫人の岩に腰掛ける姿が描かれており、やや異国的な雰囲気を醸し出す夫人は遠くを見るかのような眼差し画面右側へ向けている。



【団扇を手にする夫人の嫋やかな姿態】
鈍く陽光を反射する静かな芦ノ湖面。本作の画面構成に注目すると、しばしばスナップ・ショット的と形容される対象の自然的な瞬間を捉えた写真的な構図は秀逸の出来栄えを示しており、観る者を本作の世界観へと無理なく惹き込むのである。



【鈍く陽光を反射する静かな芦ノ湖面】
平面的で大気的な風景表現。平滑な筆触によって淡彩的で薄白的な色彩を画面に敷いたかのような水彩的な描写からは、日本の夏独特の湿度の高い空気を明確に感じることができ、画面全体を包み込む飽和的な空気の水分が本作の瑞々しく清潔な色彩や照子夫人の嫋やかな雰囲気と見事に呼応している。



【平面的で大気的な風景表現】

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