2009/01/03掲載
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智・感・情(Wisdom, Impression, Sentiment) 1897-99年各180.6×99.8cm | 油彩・画布 | 東京国立文化財研究所 関連:『智』拡大図/『感』拡大図/『情』拡大図 『智』を示す裸婦の独特な表情。1900年に開催されたパリ万博へ『裸婦習作(Etude de Femme)』として出品され、銀賞受賞に輝いた経歴を持つ本作は、小川花と幸という姉妹をモデルに僅か一ヶ月弱で制作された3枚1組の裸婦作品である。
極めて写実的に表現される裸婦。日本人女性をモデルに制作された最初の油彩裸婦作品としても広く知られている本作が制作された背景には、当時の日本社会(と画壇)における裸婦に対する無理解と低次元な批難が根幹にあると考えられている。
【極めて写実的に表現される裸婦】 『感』を象徴する裸婦の実直で無心的な視線。『智』(三体の右側)、『感』(三体の中央)、『情』(三体の左側)と三人の裸婦が描かれる本作の『感』と題された裸婦は直立で真正面に構えながら、両手を耳の高さまで上げ内側に向けている。
理想化された裸婦の身体。当時の日本人としてはあり得ないほど整った本作に描かれる裸婦の体型は、近年おこなわれた近赤外線撮影と高精細デジタル撮影によって何度も修正を加えられた痕跡が発見されており、本作で黒田清輝が裸婦の理想形を探求していることは明らかである。
【理想化された裸婦の身体】 『情』を表す裸婦の俯いた姿態。清輝自身の言葉によると、智・感・情はそれぞれ「画家の三派」と位置づけられる理想主義(智)、印象主義(感)、写実主義(情)を象徴化したものとしているが、その解釈については今なお議論が重ねられており、今後の更なる研究が期待されている。
明確な輪郭線を用いる野心的表現。本作の表現手法に注目しても金地の背景に(西洋絵画の基礎でもある)極めて写実的な描写で裸婦の全身のみを配し、さらに明確な輪郭線で対象を覆うという非常に野心的な表現を用いている点は、特筆に値する出来栄えを示している。
【明確な輪郭線を用いる野心的表現】 |