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受胎告知 (Annunciazione) 1592-1596年頃
不明 | 油彩・画布 | サンタ・マリア・デリ・アンジェリコ聖堂 |
マニエリスム様式からバロック様式への転換期において最も重要な画家のひとりフェデリコ・バロッチの傑作『受胎告知』。ペルージアのサンタ・マリア・デリ・アンジェリコ聖堂コリ・ポンタニ礼拝堂の祭壇画として現在も掲げられている本作には、神の子イエスを宿す聖なる器として父なる神より選定され、聖胎したことを告げる大天使ガブリエルと、それを静粛に受ける聖母マリアの厳粛な場面で、キリスト教美術における最も一般的な主題のひとつ≪受胎告知≫が描かれている。マニエリスム的な難解な図像展開が当時既に廃れつつあったため、本作では最先端的な表現手法として再度注目され始めていた単純で明確な図像展開が用いられており、そこにフェデリコ・バロッチ特有の豊かで明瞭な色彩と、穏やかで甘美性に満ちた描写によって場面や人物を表現することで、心地のよい温和な印象を観者に与えている。また画面上部には父なる神、三位のひとつである聖霊、天使らが均等に配され作品に安定感をもたらしているほか、画面中央の窓から覗く風景にはウルビーノのパラツゥオ・ドゥカーレが、画面左下端には貞淑を示す眠りにつく猫が配されるなど、各所に一枚の絵画作品として洗練された質の高さが存分に味わえる画家の良作として、人々に広く親しまれている。
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