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アイネイアスの逃亡 (La fuga de Enca) 1598年
179×253cm | 油彩・画布 | ボルゲーゼ美術館(ローマ) |
16世紀の様式転換期に活躍した最も重要な画家のひとりフェデリコ・バロッチ作『アイネイアスの逃亡』。ジュリアーノ・デラ・ローヴェレ枢機卿の為に制作された本作に描かれる主題は、≪アイネイアスの逃亡≫で、現存する画家唯一の肖像画・宗教画以外の作品として知られており、現在は喪失している画家がルドルフ二世の依頼によって制作した『アイネイアスの逃亡』のヴァリアント作品であると推測されている。アイネイアスはギリシア神話や古代ローマの代表的詩人ウェルギリウスの叙事詩≪アイネイアス≫などに登場するトロイ戦争(トロイア戦争)時のトロイア方の英雄で、本作は、美の女神ヴィーナスとトロイア王族の一人アンキセスとの間に生まれた勇士アイネイアスが、有名な≪トロイの木馬≫作戦によって故郷トロイアが陥落した際、父アンキセスを背負い、妻クレウサや幼い息子アスカニウスと共に業火に包まれる故郷を脱出する場面を描いたものである。本作ではフェデリコ・バロッチ独特の甘美で優雅な人物像(特に女性像)の表現に重点を置いているというよりも、全体的に作為性(ある種のわざとらしさ)を感じさせる(画家としては特殊な)表現や、より演劇性が増した場面描写、やや人工的な光彩表現に、本主題と共通する、フェデリコ・バロッチ作品にはあまり見られない特殊性が示されているのが最も大きな特徴である。このような画家の実験的要素を強く感じさせる点においても、本作は画家の様式を研究するにあたって重要視される作品のひとつでもある。
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