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キリストの磔刑 (Crocifissione) 1604年頃
374×246cm | 油彩・画布 | プラド美術館(マドリッド) |
16世紀後半から17世紀初頭まで活躍したイタリアの画家フェデリコ・バロッチ晩年期の代表作『キリストの磔刑』。ウルビーノ大公の最後の依頼により制作され、完成後、大公からスペイン国王フェリペ4世へと渡り、同国のアルカサール宮礼拝堂(マドリッド)の祭壇画として用いられた本作に描かれるのは、自らユダヤの王と名乗り民を惑わしたという罪状で受難者イエスがユダヤの司祭から告発を受け、罪を裁く権限を持つ総督ピラトが手を洗い、自身に関わりが無いことを示した為、ユダヤの司祭らの告発どおりゴルゴダの丘で2人の盗人と共に磔刑に処された教義上最も重要視される場面のひとつ≪キリストの磔刑≫で、無知なる民の罪を背負い磔刑に処される受難者イエスの姿は、画家の作品の典型的な特徴とは異なるグレイッシュな場面描写の中で深い精神性を携えながらも、父なる神と対話するかのような表情にフェデリコ・バロッチ特有の甘美的表現が示されている。また本作の風景には依頼主であるウルビーノ大公が統治するウルビーノの町と宮殿(パラツィオ・ドゥカーレ)が描かれていることがわかるほか、本作にはマニエリスム的な様式ともバロック的様式とも異なる、幻想性に富んだ独自の展開が明確に見られるなど、信仰を重んじた晩年期の画家における精神的な影響の形跡が各所に示されている。
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