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守銭奴の死 (Death of a Miser) 1490-1500年頃
92.6×30.8cm | 油彩・板 | ワシントン・ナショナル・ギャラリー |
初期ネーデルランド絵画史の画家ヒエロニムス・ボスの道徳的教訓画の代表作のひとつ『守銭奴の死』。おそらくは≪七つの大罪≫、又は≪四終≫を題材とした三連祭壇画の片翼部分として制作されたと考えられる本作は、富(金銭)を貯めることに異常な執着を持つ欲深い守銭奴へ訪れる≪守銭奴の死≫が描かれており、守銭奴がその生を謳歌し強欲に富を貯める場面と、その末に、臨終を迎えんとする場面の二場面で構成されている。身分の高さを示す質の良い寝具に横たわる守銭奴は生気がなく生命の終焉を思わせ、反対側で木扉を開く骸骨は、手にする矢で守銭奴の心臓を射抜こうと狙いをさだめている。一方、この≪守銭奴の死≫の場面のすぐ下では、まだ自身の生を謳歌している守銭奴が富の象徴である金貨を隠していた壺に貯める姿が描かれるほか、画面下部の剣、兜、槍などは神への礼賛や謙譲・道徳を意味し、それが乱暴に脱ぎ捨てられていることは、守銭奴の不道徳や不誠実を示している。これらから一般的には「不道徳や不誠実に過ごし多額の富を貯めた強欲な者にも必ず死は訪れる、死からは逃れられない。」と解釈されるも、一部の研究者からは金貨を貯める守銭奴が手にするロザリオやヒエロニムス・ボス特有の悪魔的な生物、特に本作においては修道士の姿をした生物から、当時の宗教を批判する画家の厭世観を示す寓意や異教的解釈が唱えられている。
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