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Introduction of an artist(アーティスト紹介)
画家人物像

ヒエロニムス・ボス Hieronymus Bosch
1450-1516 | ネーデルラント | 初期ネーデルランド絵画

初期ネーデルランド絵画史において、最も特異な存在感を示す大画家。人間の本性的な罪悪と世界に対する厭世観を、悪魔的な怪奇性と幻想性に富んだ極めて個性的な様式を確立。独自の世界観と道徳観、宗教観によって社会への風刺や批判を痛烈に表現した作品は当時、国内はおろか諸外国まで人気を博した。現在までに様々な研究や解釈が進んでいるも、その生涯の詳細は不明であるが、アーヘン出身の画家一族の子供として生を受け、おそらく父の下で修行をおこなう。1486年(又は1487年)に、新信仰一派であった「聖母マリア兄弟会」に所属し、以後同会への制作に従事。他の地へ赴いた記録や師弟関係を示す記録など残っていないもののブリュゴーニュ公フィリップ美男公など諸外国の多くの王侯貴族から注文を受けるほか、画家の作品はスペイン国王フェリペ2世など後の権力者たちをも魅了した。その悪魔的な表現から一部の研究者からは異教徒的思想も指摘されているが確証は無い。またピーテル・ブリューゲルなどヒエロニムス・ボス以降のネーデルランドの画家を始めとする後世の画家や芸術家、文化人に多大な影響を与えた。なおウィーン美術史美術館所蔵の『最後の審判』を始めとする一部のヒエロニムス・ボス作品には後補や修復が認められ、オリジナルの筆跡との判別も困難な作品も少なくないほか、数多くの模写も確認されており、現在も帰属論争が続いている作品も多い。


Work figure (作品図)
Description of a work (作品の解説)
【全体図】
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七つの大罪と四終 1475-1480年頃
(The Seven Deadly Sins and the Four Last Things)
120×150cm | 油彩・板 | プラド美術館(マドリッド)

初期ネーデルランド絵画の中で最も異彩を放つ巨匠ヒエロニムス・ボス初期の代表作『七つの大罪と四終』。スペイン国王でヒエロニムス・ボスの熱烈な愛好者であったフェリペ二世に所蔵され、エル・エスコリアル宮殿内の自身の居住区に飾られていた本作は、元々テーブル画として描かれた円形画であり、主イエスと銘文「汝ら心せよ、主は見そなわし給う」を中央に、キリスト教において七つの大罪とされる「憤怒」、「嫉妬」、「貧欲」、「大食」、「怠惰」、「淫欲」、「傲慢(虚栄)」を円を描くように配し、その四方には「死」、「最後の審判」、「天国」、「地獄」を配した構図が用いられている。その何れもヒエロニムス・ボス特有の解釈による大胆な場面表現が示されている。主イエスの真下には「憤怒」として争う人間を、その左には2匹の犬が骨を奪い合い敵対するというフランドルの諺を引用し「嫉妬」を、その左には権力者である裁判官の収賄場面から「貧欲」を、さらにその隣にはテーブルに溢れる食物を貪る大男の姿で「大食」を、教会へ向かうべく正装した女性が眠り耽る男を起こす場面で「怠惰」を、二組の男女が音楽や道化と戯れる姿で「淫欲」を、悪魔に与えられた鏡と向き合う女性の姿で「傲慢(虚栄)」を表現している。また本作に描かれる「七つの大罪」場面の上下には、旧約聖書の「申命記」から訓戒的な引用文「彼等は思慮に欠ける民、洞察する力がない。もし彼等に知恵があれば悟るだろう。自身の行く末も悟ったであろう。(上部)」、「わたしは、わたしの顔を隠し、彼等の行く末を見守ろう。(下部)」が記されている。

関連:ヒエロニムス・ボス作『七つの大罪と四終』解説図

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患者の石の切除(愚者の治療・いかさま)
(The Extraction of the Stone of Folly) 1475-1480年頃
49×35cm | 油彩・板 | プラド美術館(マドリッド)

初期ネーデルランド絵画史で異彩を放つ画家ヒエロニムス・ボスの作品において帰属論争の絶えない代表的な作例のひとつ『患者の石の切除』。≪愚者の治療≫や≪いかさま≫とも呼ばれる本作に描かれるのは、当時のネーデルランドで流布した寓話≪患者の石の切除≫で、摘出される(本来あるはずのない)頭の中の石は大衆の無知や愚かさの意味し、大衆の無知や愚かさを利用し利を求める打算に満ちた医師は、高い教養者と社会のモラルの欠如を示している。上部の銘文「Meester snyt die Keye ras, myne Name is Lubbert, das.」は一般的に「先生、早く頭の中の石を切除してください。私の名前はルツベルト・ダスです。」と解釈される。その様式から本作をヒエロニムス・ボスの帰属を主張する研究者の殆どは初期作品との見解を示す一方、後世による模写と主張する研究者も少なくない。

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愚者の船 (The Ship of Fools) 1490-1500年頃
57.8×32.6cm | 油彩・板 | ルーヴル美術館(パリ)

偉大なる画家ヒエロニムス・ボスを代表する作品のひとつ『愚者の船』。作品の制作経緯や意図は不明であるが、一般的には詩人であり法学者でもあった当時の知識人セバスティアン・ブラントの著書『愚者の船(1494年刊)』との強い関係性によって解釈される。ブラントは著書『愚者の船』の中で、当時のキリスト教の混乱は異教徒によってもたらされ、その異教徒の中心はトルコ人であるとしている。本作において著書『愚者の船』との関連が指摘されるのはトルコを示す三日月の旗の存在や、キリスト教の混沌を示す中央の修道士と修道女を始めとした人々の愚行によるものであるが、当時の宗教劇や祭事に登場した「青船」や、当時のネーデルランドの人文学者エラスムスによる著書「痴愚神礼讃(1509年刊)」との関連性も指摘されているほか、「七つの大罪」の祭壇画の一部と推察する研究者も多く、図像的解釈は諸説唱えられており、現在も研究が続けられている。なおニューヘブンのエール大学付属美術館が所蔵するボス作品『快楽と大食の寓意』と同パネルであるとする説も唱えられている。

関連:エール大学付属美術館所蔵『快楽と大食の寓意』

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守銭奴の死 (Death of a Miser) 1490-1500年頃
92.6×30.8cm | 油彩・板 | ワシントン・ナショナル・ギャラリー

初期ネーデルランド絵画史の画家ヒエロニムス・ボスの道徳的教訓画の代表作のひとつ『守銭奴の死』。おそらくは≪七つの大罪≫、又は≪四終≫を題材とした三連祭壇画の片翼部分として制作されたと考えられる本作は、富(金銭)を貯めることに異常な執着を持つ欲深い守銭奴へ訪れる≪守銭奴の死≫が描かれており、守銭奴がその生を謳歌し強欲に富を貯める場面と、その末に、臨終を迎えんとする場面の二場面で構成されている。身分の高さを示す質の良い寝具に横たわる守銭奴は生気がなく生命の終焉を思わせ、反対側で木扉を開く骸骨は、手にする矢で守銭奴の心臓を射抜こうと狙いをさだめている。一方、この≪守銭奴の死≫の場面のすぐ下では、まだ自身の生を謳歌している守銭奴が富の象徴である金貨を隠していた壺に貯める姿が描かれるほか、画面下部の剣、兜、槍などは神への礼賛や謙譲・道徳を意味し、それが乱暴に脱ぎ捨てられていることは、守銭奴の不道徳や不誠実を示している。これらから一般的には「不道徳や不誠実に過ごし多額の富を貯めた強欲な者にも必ず死は訪れる、死からは逃れられない。」と解釈されるも、一部の研究者からは金貨を貯める守銭奴が手にするロザリオやヒエロニムス・ボス特有の悪魔的な生物、特に本作においては修道士の姿をした生物から、当時の宗教を批判する画家の厭世観を示す寓意や異教的解釈が唱えられている。

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地上の楽園・祝福された者の楽園への上昇 1500-04年頃
(The Earthly Paradise・The Acsension of the Blessed)
各87×39cm | 油彩・板 | パラッツォ・ドゥカーレ(ヴェネツィア)

画家ヒエロニムス・ボス作『地上の楽園・祝福された者の楽園への上昇』。『地獄・呪われた者の墜落』と共に描かれたとされる本作の制作意図や目的は不明であり、今なお研究が続けられているも、≪最後の審判≫や≪キリストの復活≫を中央に配した祭壇画の両翼であるとする説や、≪地上の楽園、祝福された者の楽園への上昇、地獄、呪われた者の墜落≫の四場面のみで構成される二連祭壇画とする説が現在では一般的であるほか、一部の研究者から当時の思想家による≪終末論≫との関連性も指摘されている。おそらくは旧約聖書を典拠に父なる神が最初の七日間で形成した世界を、独自解釈によって表現した≪地上の楽園≫と、天使たちによって(幸福が)約束された地へ導かれる場面≪祝福された者の楽園への上昇≫のニ場面が描かれる本作は、いずれもヒエロニムス・ボスの思想的表現が認められ、特に≪地上の楽園≫画面下部に描かれる起立(又は楽園への上昇の説得)を促す天使を完全に信用していない人間の未熟な精神性(信仰心)や、≪祝福された者の楽園への上昇≫での未知なる地への恐れを抱く人間の表現にそれが示されている。また≪祝福された者の楽園への上昇≫に描かれる楽園へと続く円筒形の光のトンネルの図像的表現も(楽園を天国と解釈する場合、通常、門≪天国への入門≫として描かれる為)本作において特筆すべき点のひとつである。

関連:『地獄・呪われた者の墜落』

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地獄・呪われた者の墜落 1500-04年頃
(The Hell Fall of the Damned)
各87×39cm | 油彩・板 | パラッツォ・ドゥカーレ(ヴェネツィア)

画家ヒエロニムス・ボス作『地獄・呪われた者の墜落』。『地上の楽園・祝福された者の楽園への上昇』と共に描かれたとされる本作の制作意図や目的は不明であり、今なお研究が続けられているも、≪最後の審判≫や≪キリストの復活≫を中央に配した祭壇画の両翼であるとする説や、≪地上の楽園、祝福された者の楽園への上昇、地獄、呪われた者の墜落≫の四場面のみで構成される二連祭壇画とする説が現在では一般的であるほか、一部の研究者から当時の思想家による≪終末論≫との関連性も指摘されている。図像的解釈に基づけば、新約聖書に記される≪最後の審判≫によって罪深き存在として断罪された者が地獄へと落ちてゆく場面≪呪われた者の墜落≫と、審判者イエスによって断罪された者が落され、悪魔から永遠の苦痛を強いられる地≪地獄≫が描かれているとすることができる本作では、ヒエロニムス・ボスの大きな特徴である非常に異色で奇怪な世界観による表現が示されている。とはいえ代表作『最後の審判』など後の三連祭壇画に描かれる罪人の姿や地獄の描写と比べ、罪人が抱く後悔と罪悪の深い精神性や恐怖感がより鮮明に世界観へと反映されており、陰惨で暗く沈み込む場面表現と、対照的にそれを映し出す恐々と燃える炎の描写が、本作を画家の作品群の中で、より特異的な存在にしている。

関連:『地上の楽園・祝福された者の楽園への上昇』

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干し草車 (The Haywain) 1500-05年頃
135×190cm | Oil on panel | Museo del Prado, Madrid

ヒエロニムス・ボス作品の熱心な収集家であった16世紀スペイン国王フェリペ2世が手に入れた、快楽の園と並ぶボスの代表作『干し草車』。閉扉面に描かれる≪放蕩息子≫、開扉面左の≪エデンの園(原罪)≫、開扉面中央の≪干し草車≫、開扉面右の≪地獄≫と、4つの世界から構成されるこの祭壇画の主題は、旧約聖書の預言書であるイザヤ書からとの見解もあるが、当時のフランドルの諺「この世は干し草の山であり 誰もがありったけを掴み取ろうとする」という説が今日では今日では有力視されている。本祭壇画で特筆すべき点は、中央部分に細密な人物描写によって描かれる≪干し草車≫で、祭壇画全体の図解は、原罪を持った人間が、自己の欲に従う愚行を重ねた後、地獄へと至る運命を意味していると推測されている。また干草部分には我先にと干し草を掴み取ろうとする(物欲にまみれた)人間の姿が描かれるほか、怠惰、強奪、愛欲などの罪を犯す人々の姿も描かれる。さらに画面上部には下界(世界の全て)を見下ろす天上の神(父なる神)の姿が配されている。なお閉扉面に描かれる≪放蕩息子≫はこの世の悪に染まる人間との見解もあるが、一般的には神なき愚行の世界を憂い逃れんとするキリスト教信者だと解釈されている。

関連:中央部≪干し草車≫拡大図
関連:左右部≪エデンの園(原罪)≫≪地獄≫拡大図
関連:閉扉面≪放蕩息子≫拡大図

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聖アントニウスの誘惑 (The Temptation of St. Anthony)
1500-05年頃
135×190cm | Oil on panel | リスボン国立美術館

聖アントニウスの飛翔と墜落(左)、聖アントニウスの瞑想(右)の両翼をもったボス作品の特徴が存分に発揮されている祭壇画。この作品の主題≪聖アントニウスの誘惑≫とは、砂漠で修行中の聖アントニウスが悪魔の誘惑を受け、奇怪で生々しい幻想に襲われる場面を指し、誘惑に耐える聖アントニウスの信仰心が教義となっている。キリスト教の聖人、聖アントニウスとは、エジプト生まれの修道士で、貧困に喘ぐ者へ財産を与え砂漠に移り住み、隠修士として瞑想と苦行の生活を送った、修道院制度の創始者として考えられている人物で、中世以来、最も人気の高かった聖人のひとりでもある。

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東方三博士の礼拝 (The Adroration of the Magi) 1510年頃
138×138cm | Oil on panel | Museo del Prado, Madrid

三王礼拝、マギの礼拝とも呼ばれ、新約聖書に記される、未来の王イエスの降誕に際し、東方の三博士が星に導かれて幼子キリストを訪れて礼拝した場面を描いた祭壇画『東方三博士の礼拝』。また開扉時右部分には≪聖ペテロと寄進者≫、開扉時左には≪聖アグニスと寄進者の妻≫、閉扉時正面には≪聖グレゴリウスとミサ、二人の寄進者≫が描かれている。画面中央には三博士の礼拝を受ける未来の王イエスと、主イエスを抱く聖母が描かれており、主イエスに贈られた黄金は王権への敬意を、乳香は神性への敬意を象徴し、没薬は死の予兆であるとされる。(没薬は当時、死体の保存に使われていた)。また厳密には三博士は列聖されていないので聖人とはならず、新約聖書にも3人が訪れたとは書かれていないカスパル、メルヒオール、バルタザールの三者は、新約聖書に記される、礼拝の際にキリストへ捧げられた3つの贈り物(黄金、乳香、没薬)から、6世紀頃に Thaddadia, Melchior, Balytora という3人の聖人達がキリストを訪れたと解釈され、8世紀になり現在の名称に定着した。

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最後の審判 (The Last Judgment) 1510年以降
164×247cm | 油彩・板 | ウィーン美術アカデミー付属美術館

初期ネーデルランド絵画史において最も重要な画家のひとりヒエロニムス・ボスを代表する宗教画のひとつ『最後の審判』。本作に描かれるのは、再度復活を遂げた神の子イエスが最後の日に再臨した後、全ての死者を復活させ、人類を善と悪に裁き天国と地獄に導くというキリスト教における最重要教義のひとつ≪最後の審判≫で、両翼裏に描かれるグリザイユ画イエス十二使徒のひとり≪使徒ヤコブ(左)≫がスペイン初代大司教としても知られるスペインの守護聖人であり、≪ヘントの聖パヴォ(右)≫がフランドル出身の悔悛者でフランドルの守護聖人であることから、依頼主と推測されるフィリップ美男公とカステリーリャ公妃ファナとの縁組の関係性が指摘されている。また一部の研究者からは、本作に関するこの両家の関係性を示すものとして、アルテ・ピナコテークが所蔵する『最後の審判(断片)』と何らかのつながりがあるとする説が唱えられている。図像的には登場人物こそ裁判者イエスを中心に聖母マリアを始めとした諸聖人や天使たちが配されるも、十字架や石柱など受難具が描かれていない点や、審判部分が画面全体の4分の1程度と極めて狭い範囲で描かれる点など伝統的図像から逸脱する部分も多い。また本作は16世紀や17世紀に数回塗り直されていることが近年の調査から判明しており、原図筆致の判別が非常に困難な状況であるほか、真筆か模写(又はヴァリアント)か議論も続いている。

関連:両翼裏グリザイユ部分『使徒ヤコブ』『聖パヴォ』
関連:アルテ・ピナコテーク所蔵『最後の審判(断片)』

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快楽の園 (The Garden of Earthly Delights) 1510-15年頃
220×389cm | Oil on panel | Museo del Prado, Madrid

性的な秘儀を重視するアダム主義など異端的な作品であるとするか、人間の愚行と罪の告発や断罪を目的とした作品であるとするか、今も作品の解釈が議論され続けている後期ゴシックを代表する画家ヒエロニムス・ボス屈指の作品『快楽の園』。16世紀のスペイン国王フェリペ2世によりコレクションされた本作には、閉扉時に旧約聖書において父なる神が世界を創造する場面≪天地創造≫の一場面が、開扉時には伝統的に左扉部分となる≪天国≫にはアダムとエヴァによる原罪が、中央には淫欲の罪を表すとされる≪現世≫が、右扉部分となる≪地獄≫には淫欲の罪を犯し肉欲に支配され人間が堕落する様子が描かれているとされている。祭壇画の閉扉時はグリザイユ(と呼ばれるモノトーンの描写方法)によって≪世界の創造≫が描かれ、天地創造の3〜4日目を表し、海と陸に隔てられた地上には生物がまだ存在していない。また内部の左扉に描かれるのは、アダムとエヴァによる原罪を表すと言われている。この中央部分『快楽の園』は一糸纏わぬ男女の入り乱れる姿から、≪淫欲≫の罪を表していると推測されている。内部の左扉には、淫欲の罪を犯し肉欲に支配され人間が堕落する様子、『音楽地獄』が描かれており、この地獄部分にはヒエロニムス・ボス作品の特徴と言える、幻想的な奇怪生物が見事に表現されている。

関連:快楽の園(閉扉時) -世界の創造-

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十字架を担うキリスト (Christ Carrying the Cross)
1515-16年頃
74×81cm | Oil on panel | Museum voor Schone Kunsten

後期ゴシックの巨匠ヒエロニムス・ボス最晩年の作品『十字架を担うキリスト』。主題はエルサレムで捕らわれたキリストがユダヤ人から愚弄され、さまざまな辱めや暴力を受ける≪キリストの嘲弄≫の一場面で、 善であるキリストの姿と、悪であるユダヤ人の対比を、容貌によって巧みに描き分けた。

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