2006/05/23掲載
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ヴィーナスとマルス(Venere e Marte) 1483年69×173cm | テンペラ・板 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー
その表情に一抹の憂いを感じさせる愛と美と豊穣の女神ヴィーナス。本作に描かれているのは、ギリシア神話のアフロディーテと同一視される愛と美と豊穣の女神ヴィーナスと、主神ユピテルと正妻ユノの子でありギリシア神話におけるアレスと同一視される軍神マルスの蜜月関係と考えられている。
【表情に憂いを感じさせる女神ヴィーナス】
疲れ果て眠る軍神マルス。女神ヴィーナスの流麗な曲線で描かれる輪郭線や品位を感じさせる白地を用いた肌や衣服、軍神マルスの男性的な身体描写など最高潮に達した画家の優れた力量が存分に示されているが、本作において最も注目すべき点はメディチ家によって統治されるフィレンツェを支配していた人文主義的な表現にある。
【疲れ果て眠る軍神マルス】
嬉々として周りを囲戯れる森の神ファウヌス。愛と美の象徴である女神ヴィーナスは今は動かない不和と戦の象徴を一抹の憂いを感じるかの如く見つめ、それらとは対称的に森の神ファウヌスが嬉々として女神ヴィーナスと軍神マルスの周りを囲戯れる姿で描かれている。
【周りを囲戯れる森の神ファウヌス】 |