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アルノルフィーニ夫婦 1434年
(Double Portrait of Giovanni : Arnolfini and His Wife)
81.8×59.7cm | Oil on panel | National Gallery, London |
ロンドン・ナショナルギャラリーで展示される、神の手を持つ男と呼ばれ、油彩画の基礎を築いたネーデルランド絵画の巨匠ヤン・ファン・エイクの傑作『アルノルフィーニ夫婦』。モデルはイタリア出身の銀行家で、フィリップ善良公に仕えたジョヴァンニ・アルノルフィーニと、その婚約者ジョヴァンナ・チェナーミ。二人の結婚の立会い者として、画家自身が中央の鏡の中に描かれている本作は、ネーデルランド(現ベルギー)で描かれた当初から名画として名声を博し、オーストリア(ハプスブルグ家)やスペインを経由した後、現在の所蔵先である英国へと渡った。主題については、妊娠説、占い説など当時より諸説唱えられていたが、1960年代に、ドイツ人学者によって、ジョヴァンニ・アルノルフィーニとジョヴァンナ・チェナーミの婚礼の秘儀を描いたものと発表されてからは、この説が最も有力視されている。ジョヴァンナ・チェナーミの手を取り祈りを捧げる姿は、窓から差し込むやわらかい光により、より一層、厳かで落ち着いた雰囲気を場面内に与えている。若々しい妻ジョヴァンナ・チェナーミの衣装には、妊娠をしているかのように腹部が膨らんでいるが、これは当時の流行が取り入れられた為であると研究されているほか、右部のベッドの柄には妊婦の守護聖人である聖マルガリータが彫られている。さらに一本だけ火が灯った蝋燭は契約を意味し、犬は忠誠を、木のサンダルは神聖な儀式であること(又は女性器)を、窓辺の果実はエデンの園でイブが食べたリンゴ、つまり原罪を表わしている(詳しくは拡大図を参照)。画面中央の鏡の上には「ヤン・ファン・エイクここにありき 1434年」と画家のサインが記されており、画家の揺ぎ無き細密描写への自信が示されている。またサイン下部の鏡の周囲には、キリストの十字架の道行き(キリストの受難)の10場面が描かれている。
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