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女性の肖像(ラ・ヴェッラ・ナーニ) 1560-1565年頃
(Ritratto di gentildonna (La Bella Nani))
119×103cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ) |
ティントレットと並び称される、ティツィアーノ以後の16世紀ヴェネツィア派の巨匠ヴェロネーゼが残した数多くの肖像画作品の中で、最も優れた傑作とされる一枚『女性の肖像(ラ・ヴェッラ・ナーニ)』。本作は、ヴェネツィアの名家ナーニ家が旧蔵していたことから伝統的に≪ラ・ヴェッラ・ナーニ(美しきナーニ)≫と呼称されるも、描かれた人物がナーニ家の者であるかは確証を得ていない。それでもなお、本作が画家が残す数多くの肖像画の中で傑作中の傑作と呼ばれるのは、ヴェロネーゼの類稀な感性と技量によって生み出される≪ラ・ヴェッラ・ナーニ≫の豊潤で官能性に溢れた麗しい表現に他ならない。豪華な衣服に身を包む≪ラ・ヴェッラ・ナーニ≫の胸部を中心に光が拡散し、ヴェネツィア派独自の豊かで繊細な色彩によって丹念に描写されるその表現が、やや俯き加減に傾けられた端正な顔の中に描かれる物思いに耽るかのような、悩ましくも官能的な瞳の表情と相まって≪ラ・ヴェッラ・ナーニ≫が、本作の中で観者と対話するかの如く独自の世界を創り出しているのである。
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