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スキピオの自制 (Die Enthaltsamkeit des Scipio) 1600年頃
72.5×106.5cm | 油彩・銅版 | アルテ・ピナコテーク |
17世紀初頭のフランドル絵画の巨匠ヤン・ブリューゲル作『スキピオの自制』。本作の制作目的や意図など詳細は不明であるが、完成度の高さから画家の代表作として語られてきた本作に描かれるのは、紀元前ローマの歴史家リヴィウス著「ローマ建国史」や14世紀イタリアの詩人ペトラルカ著「アフリカ」に記された、古代ローマの名門貴族でイタリアの英雄としても知られる軍人スキピオ・アフリカヌス物語の中から、十代の頃に一度大敗を喫していた名将ハンニバル・バルカ率いるカルタゴ軍との戦いに勝利しカルタゴを征服したスキピオ・アフリカヌスは、戦勝の賠償と祝いのため美しい女性の捕虜を提供されるも、その女性に婚約がいることを知りそのまま婚約者へと返したとされる、英雄スキピオの逸話≪スキピオの自制≫である。本作のようなヤン・ブリューゲルの神話・宗教・歴史を扱った物語画は、父ピーテル・ブリューゲルの得意とした視点を高く取りパノラマ的に展開する風景描写、所謂≪世界風景≫表現と、17世紀オランダ風景画に用いられた実写描写との結接性を示すものとして重要視されており、本作は中でも関連性やその表現の秀逸さにおいて特筆に値するものである。主題≪スキピオの自制≫に基づく港町に集う群衆表現は、ヤン・ブリューゲルの丹念に描き込まれた緻密な描写によって、単一的に陥ることなく多様な表情や動作が表現されている。また叙情性を強く感じさせる遠景の山々や海上の表現は観る者を現実世界から逸脱させ、物語の中に入り込むかのような幻想的な世界へと誘うのである。
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