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Introduction of an artist(アーティスト紹介)
画家人物像

ヤン・ブリューゲル(父) Jan Brueghel the Elder
1568-1625 | フランドル | バロック

16世紀後半から17世紀にかけて活躍したフランドルの画家。色彩豊かで光溢れる細密描写を用いて、花や森、自然、動物などを描く手法を得意とし、その高い表現力から「ビロードのブリューゲル(又は花のブリューゲル)」と称された。また大画家ルーベンスやヘンドリック・ファン・バーレンなど同時代を代表する画家らと共作で数多く作品を手がけていたことは、当時の画家同士の繋がりや背景を研究する上で重要な拠点となる。アントウェルペンで初期ネーデルランド絵画最後の巨匠ピーテル・ブリューゲル(大ブリューゲル)の次男として生まれ、同地で修行時代を過ごしたと考えられている。1589年頃にイタリアへ旅行し、画家の有力なパトロンの一人となるミラノ大司教フェデリコ・ポロメオ枢機卿と知り合う。1596年にアントウェルペンへ戻り翌年に画家組合へ加入、1609年からはネーデルランド総督アルベルト大公とイザベラ皇女の宮廷画家として筆を振るう。画家の手がけた花弁画や風景画、他の画家との共作による寓意画や神話画、宗教画などは、画家一家であったブリューゲル一族の中でも父ピーテル・ブリューゲルに次ぐ評価を得ている。ヤン・ブリューゲルの兄ピーテル・ブリューゲル(子)や、画家の息子ヤン・ブリューゲル(子)も画家として活躍した。なおルーベンスと共作した作品の中で最も著名な作品のひとつとされるアルテ・ピナコテーク所蔵の『花輪の聖母』はルーベンスの項目に記した。


Work figure (作品図)
Description of a work (作品の解説)
【全体図】
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スキピオの自制 (Die Enthaltsamkeit des Scipio) 1600年頃
72.5×106.5cm | 油彩・銅版 | アルテ・ピナコテーク

17世紀初頭のフランドル絵画の巨匠ヤン・ブリューゲル作『スキピオの自制』。本作の制作目的や意図など詳細は不明であるが、完成度の高さから画家の代表作として語られてきた本作に描かれるのは、紀元前ローマの歴史家リヴィウス著「ローマ建国史」や14世紀イタリアの詩人ペトラルカ著「アフリカ」に記された、古代ローマの名門貴族でイタリアの英雄としても知られる軍人スキピオ・アフリカヌス物語の中から、十代の頃に一度大敗を喫していた名将ハンニバル・バルカ率いるカルタゴ軍との戦いに勝利しカルタゴを征服したスキピオ・アフリカヌスは、戦勝の賠償と祝いのため美しい女性の捕虜を提供されるも、その女性に婚約がいることを知りそのまま婚約者へと返したとされる、英雄スキピオの逸話≪スキピオの自制≫である。本作のようなヤン・ブリューゲルの神話・宗教・歴史を扱った物語画は、父ピーテル・ブリューゲルの得意とした視点を高く取りパノラマ的に展開する風景描写、所謂≪世界風景≫表現と、17世紀オランダ風景画に用いられた実写描写との結接性を示すものとして重要視されており、本作は中でも関連性やその表現の秀逸さにおいて特筆に値するものである。主題≪スキピオの自制≫に基づく港町に集う群衆表現は、ヤン・ブリューゲルの丹念に描き込まれた緻密な描写によって、単一的に陥ることなく多様な表情や動作が表現されている。また叙情性を強く感じさせる遠景の山々や海上の表現は観る者を現実世界から逸脱させ、物語の中に入り込むかのような幻想的な世界へと誘うのである。

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【全体図】
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青い花瓶の中の花束 1606年頃
(Blumenstrauβ in einer blauen Vase)
66×50.5cm | 油彩・画布 | ウィーン美術史美術館

花のブリューゲルとの異名を持つフランドル絵画の巨匠ヤン・ブリューゲル(父)の代表的な花弁画作品のひとつ『青い花瓶の中の花束』。本作は1600年代より手がけ始めた画家の代表的なモティーフのひとつである≪花瓶に生けた花≫を描いた花弁画作品であるが、本作はその中でも特に秀逸な出来栄えを示す代表作例として広く知られている。本作ではヤン・ブリューゲル(父)の大きな手法的特徴である入念な細密描写による表現も、特筆に値する点であるが、主題である青い花瓶と花束のほか、蝶などの昆虫や落花など錯覚的なアプローチが示されているのが重要視される。これは同時代に美術収集家らの要望により大きくなった静物画の需要を、ヤン・ブリューゲル(父)が博物学、植物学などへの関心と美術的動機を両立させ注文に応じていることの表れであり、画家の静物描写における発展の軌跡を示す重要な資料となるのである。また表現においても、鮮やかな色彩で描写された花束を暗中に浮かび上がらせることによって、平面的ではなく、より立体的に空間構成をおこなっていることは興味深い点のひとつである。なお同時期に描かれた画家の花弁画として、アンブロシアーナ美術館所蔵の『ミラノの花束(大)』が知られている。

関連:アンブロシアーナ美術館所蔵 『ミラノの花束(大)』

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【全体図】
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楽園のアダムとイブ
(Adam und Eva im Paradies) 1615年頃
74×114cm | 油彩・板 | マウリッツハイス美術館(ハーグ)

17世紀初頭のフランドル絵画の巨匠ヤン・ブリューゲルと大画家ピーテル・パウル・ルーベンスによる共作の中で最も傑出した作品のひとつ『楽園のアダムとイブ』。ルーベンスが人物を、ヤン・ブリューゲルが得意としてた動物を描いた本作に描かれるのは、旧約聖書の創世記第2章から第3章に記される、父なる神によって創造された最初の人間アダムと、アダムの肋骨から生まれた最初の女性イブ(エヴァ)が、神の庇護の下、中央に命の木と善悪の知識の木が茂るエデンの園で様々な動物らと暮らす中、神より口にすることを禁じられていた善悪の知識の実を、蛇に「神のようになれる」と唆され、イブ(エヴァ)が取ってしまう場面≪蛇に唆され善悪の知識の実を取るイブ(エヴァ)≫で、ルーベンスによる質量感に溢れたアダムとイブの表現と、牧歌的なエデンの園で戯れるヤン・ブリューゲルが描いた動物らの表現は、非常に高度で類稀な融合性を示している。特に細密描写によって描かれる画面右端で戯れ合う二匹の虎などの自然主義的な運動性や、孔雀や鸚鵡を始めとした様々な鳥の豊潤で明瞭な色彩は、観る者の目を奪うばかりであり、ヤン・ブリューゲルの高い表現力が表れた良例のひとつとも言える。

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