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十字架上のキリストを抱く聖フランチェスコ 1620年代初期
(San Francisco abrazando a Cristo crucificado)
228×167cm | 油彩・画布 | バレンシア美術館 |
主にバレンシアで活躍したスペイン・バロック絵画の巨匠フランシスコ・リバルタ1620年代の代表作『十字架上のキリストを抱く聖フランチェスコ』。カプチン会サングレ・デ・クリスト(キリストの血を意味する)修道院の祭壇画として制作された本作に描かれる主題は、アッシジに生まれた聖人で純潔、服従、清貧を旨とした聖フランシスコ会の創始者フランチェスコが、磔刑に処される十字架上の主イエスを抱くというの神秘的体験≪十字架上のキリストを抱く聖フランチェスコ≫で、厳しい明暗対比による劇的な場面表現が如実に表される本作は、スペイン絵画における自然主義への萌芽を示すものである。本作で聖フランチェスコは脱魂による恍惚の表情を浮かべながら、幻視した主イエスの御身に刻まれる傷痕へ唇を近づけて、十字架上の主イエスは痛々しく釘の刺さる右手で荊の冠を聖フランチェスコへ授けている。その左右では天使らが花冠を主イエスに被せようと近づく姿や奏楽する天使が表情豊かに描かれている。このようなカラヴァジスムを感じさせる深く厳しい明暗法による劇的な自然主義的表現は、当時のスペイン絵画においてはまだ殆ど示されない手法であり、リバルタはその扉を開いた画家としても重要視されている。また聖フランチェスコの足に踏みつけられる金冠の豹らしい動物は、世俗的な栄光と七つの大罪(傲慢・嫉妬・憤怒・怠惰・強欲・暴食・色欲とされる)の拒絶を示していると解釈されている。本作の珍しい主題構図はセビーリャ派の巨匠ムリーリョが同主題を描いた作品にも影響を与えたことが指摘されている。
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