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聖ヨセフの夢(聖ヨセフの前に現れる天使)
(Songe de saint Joséph, dit aussi Ange apparaissant à saint Joséph)
制作年不明 | 93×81cm | 油彩・画布 | ナント美術館 |
17世紀フランス古典主義の画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの再発見の端緒となった作品『聖ヨセフの夢』。1965年にドイツの美術史研究者ヘルマン・フォッスがおこなった、失名の画家による3枚の絵画の研究・鑑定によって、初めてジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作であると認定された、別名、『聖ヨセフの前に現れる天使』とも呼ばれる本作の主題については、再発見以来、聖マタイと天使説、聖ペトロと解放する天使説、師士サムエルと盲人エリ説など様々な説が唱えられるも、アトリビュートやイコノグラフ的解釈からいずれも否定され、現在では主イエスを聖胎する聖母マリアと結婚した聖ヨセフと、聖ヨセフの前に現れた天使とする説でほぼ断定された。本作の転寝する聖ヨセフの右手に添えられる天使の腕の奥で灯された、闇を照らす蝋燭の炎による光(逆光)の効果は絶大で、簡素かつ温順でありながら神秘性を強く感じさせるこの光の表現は、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの極めて高度な技量を示す実直な写実描写によって、通常ならば観る者に抱かせる現実感を緩和させるだけでなく、夜の場面に相応しい静謐感や、宗教的主題の深い精神性を高める効果も生み出している。また本作中で最も光が強く当たる、聖ヨセフの前に現れた天使の顔は、どこか幼子イエスの面影を感じさせるほか、聖ヨセフとは異なり、蝋燭の炎に照らされ薄暗い闇の中で天使の身体がシルエット的に浮かび上がることによって、画面に描かれる身体のほぼ全面が深い影に支配されながらも、より存在感を増していることは特筆に値する。
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