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悔悛するマグダラのマリア(鏡のマグダラのマリア)
(Madeleine pénitente, dit aussi Madeleine Fabius)
113×93cm | 油彩・画布 | ワシントン・ナショナル・ギャラリー
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フランス古典主義を代表する巨匠ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの現存する作品の中で、最も多い主題のひとつ『悔悛するマグダラのマリア』。鏡のマグダラのマリア、ファビュスのマグダラのマリアとも呼ばれる本作に描かれるのは新約聖書ルカ福音書などに記された、主イエスの足下で泣き己の涙で濡らした後、主の御足に接吻して香油を塗り、自らの髪でそれを拭ったとされる罪深き女で、しばしばマルタの妹でラザロの蘇生を目撃したマリア、悪霊憑きのマグダラの女と混同されている≪マグダラのマリア≫が己の罪を悔い改める姿である。本作において、右手で頬杖をつくマグダラのマリアは揺らめく蝋燭の炎(又はその先の鏡か鏡に映るもの)を一心に見つめながら、蝋燭の手前の厚い書籍の上に置かれる頭蓋骨(マグダラのマリアのアトリビュートのひとつ)に左手をかざしている。マグダラのマリアの憂いとも悲観とも改悛とも解釈できる独特の表情を浮かべており、特に蝋燭の炎に照らされる瞳の中で微かに輝く一点の鈍光は、本作を観る者にも深い精神性と瞑想性を感じさせる。また表現手法においてもラ・トゥール独特の闇と影で支配された世界観の中に灯される暖かで神秘的な光の表現や、滑らかな写実的描写を見せながらも深く陰影が落ちる部分を大胆に平面化する独自の様式など注目すべき点は多い。なおフランスのナンシーにある「ロレーヌ美術館」や、ブザンソンの「時の博物館」などに本作の上半身のみを描いた模写が残されている。
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