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聖トマス(槍を持った聖人) 1632-45年頃と推測
(Saint Thomas, dit aussi Saint à la pique)
71×56cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ) |
フランス古典主義の画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの代表的な単身聖人像作品のひとつ『聖トマス(槍を持った聖人)』。本作に描かれる聖人は、「ディディモ(双子を意味する)」とも呼ばれた主イエス十二使徒の中のひとりで、復活した主イエスの姿を自身の目で見るまで信じないと主の復活に懐疑心を抱いた逸話「不信のトマス」でも知られる≪聖トマス≫である。主の昇天後の聖トマスの生涯については、インドへと渡り同地で福音を伝えたとの記録(言行録)が残されるも、その信憑性などを巡って古くから議論が続けられている。本作の制作年代に関しては諸説唱えられているものの、表現的・様式的特徴から1632-35年頃とするのが一般的である。画面中央でやや斜めに構える聖トマスは革製の衣服と青衣を身に着け、右手には槍を、左手には書物を持っている。その表情や様子はラ・トゥールの大きな特徴である実直な自然主義的写実性によって聖トマスの内面的な性格を映したかのように、落ち着きと穏静に満ちている。背景には他のラ・トゥールの作品同様、何も描かれていないものの、画面の左右で、強い光がつくりだす非常に大きな明暗対比が観る者に(聖人が醸し出すような)独特な緊張感や精神性を抱かせる。なお、おそらくラ・トゥールの画業の初期頃(1615-25年頃?)に連作として制作された『アルビのキリストと十二使徒(現存する真作数は5点)』の中で手がけられた『聖トマス』像が東京の国立西洋美術館に所蔵されている。
関連:『聖トマス(連作:アルビのキリストと十二使徒)』
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