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聖イレネに介抱される聖セバスティアヌス 1649年末頃
(Saint Sébastien soigné par Irène (à la torche))
167×130cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ) |
フランス古典主義の画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの代表的な宗教画作品『聖イレネに介抱される聖セバスティアヌス』。「松明のある聖セバスティアヌス」、又は「聖セバスティアヌスの死を嘆く聖イレネ」とも呼ばれる本作に描かれるのは、ガリアのナルボンヌ出身のディオクレティアヌス帝付近衛兵(ローマ軍人)であったものの、殉教者らに声をかけられたことからキリスト教徒であることが発覚し、杭に縛られ無数の矢を射られて、瀕死の状態に陥った伝説的な聖人≪聖セバスティアヌス≫を、聖イレネが看病しその傷を癒したとされる≪聖イレネに介抱される聖セバスティアヌス≫の場面で、おそらく本来はリール修道院の祭壇画であったと考えられている。発見時は工房もしくは模写とされていた評価も、その後のX線の調査によって多数の修正跡が判明したことから、今日ではラ・トゥールの真作であると結論付けられている本作は、場面が屋外であることが確定している(画家の)唯一の現存する作品であり、その点でも非常に重要な作品と言える。右手で松明を持ち、地面に横たわる(胸腹部に矢の刺さる)聖セバスティアヌスの手をとり様子を窺う聖イレネは、松明の光によって闇の中で最も強い光に照らされている。これまで幾多の画家らが度々描いてきた、カトリックでは最も人気のあった聖人のひとりである聖セバスティアヌスは、柔らかい松明の光の加減とそこに落ちる深い陰によって全身が土気色で表現されているほか、聖イレネの背後の女性らは、(聖イレネの衣服同様)本作の中で最も色彩を感じさせる鮮やかな長頭巾を身に着けている。残念ながら長い間劣悪な状況下に措かれていたため、画面の剥落など著しい損傷が認められる本作ではあるが、本場面に宿る聖イレネの深い慈愛や精神性、やがで回復する聖セバスティアヌスの深い聖性などは、静謐な場面描写と共に本作の最も大きな見所のひとつである。なお本場面から聖イレネは看護婦の守護聖人となった。
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