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キリストと姦淫の女 (Saint Jean baptisant le Christ)
1653年頃 | 122×195cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館 |
古典主義の大画家ニコラ・プッサンが手がけた宗教画の代表的作例のひとつ『キリストと姦淫の女』。本作に描かれるのは、新約聖書ヨハネ福音書 第8章1-11に記される、主イエスが説教をおこなう中、ファリサイ派の者や律法学者らが姦通の罪を犯した女をイエスの前に連れて行き、「モーセによる律法では姦通を犯した者は石打ちの刑(死刑)。この女はその罪人です。処罰は如何しましょう?」とイエスに訊ねると、主イエスは地面に字を書き終えた後、「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、最初にこの女に石を投げなさい。」と述べ、ファリサイ派の者や律法学者らを退けさせた場面≪キリストと姦淫の女≫で、新約聖書中、最も有名な逸話のひとつである本場面を、画家の典型的な様式である古典様式を用いて的確に表現されている。本作の堅牢で幾何学的な建築空間はキュビズム(立体派)的な様相を呈し、20世紀には同世紀最大の画家パブロ・ピカソなどに多大な影響を与えたことでも知られているほか、安定的で秩序正しい演劇的な場面表現や節度ある人物の運動的動作描写など、宗教画としての精神性に満ちた表現も特筆に値する出来栄えである。なお、この姦淫の女はしばしば主イエスの足下で泣き己の涙で濡らした後、御足に接吻して香油を塗り、自らの髪でそれを拭ったとされる罪深き女や、マルタの妹でラザロの蘇生を目撃したマリア、悪霊憑きのマグダラの女など、所謂≪マグダラのマリア≫の逸話と混同されることが多い。
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