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キューピッド、ヴィーナス、そして「希望」に打ち負かされるサトゥルヌス (Saturne vaincu par l'Amour, Vénus et l'Espérance) 1645-1646年頃
187×142cm | 油彩・画布 | ベリ美術館(ブールジュ) |
17世紀フランスにおけるバロック様式の大画家シモン・ヴーエの代表作『キューピッド、ヴィーナス、そして「希望」に打ち負かされるサトゥルヌス』。本作に描かれるのは、神々の長老であり、我が子を喰らった逸話や時の翁としても知られるサトゥルヌスが、美の女神ヴィーナスと愛を司るキューピッド、そして「希望」の擬人像によって打ち負かされる寓意で、方向性や内容に多くの類似点が見られる画家が若い頃(ローマ滞在時)に手がけたプラド美術館所蔵の『若さと美に打ち負かされる時間の翁(1627年)』と比較すると、構成力、表現力、色彩描写などあらゆる面で『若さと美に打ち負かされる時間の翁』を凌駕しており、画家随一の代表作として知られている。右手に大鎌を持つサトゥルヌスは、美の女神であり本作では真実の象徴としても解釈されるヴィーナスによって毛髪を、希望の擬人像(足下の大錨がそれを象徴する)や愛を司るキューピッドによって翼を引っ張られており、その上では富の象徴(黄金や金貨を手にする)や名声の象徴(トランペットを手にする)が浮遊している。このように明確な図像的展開を用いながら、打ち負かされるサトゥルヌスの苦悶に歪む表情や姿勢、ヴィーナスや希望の擬人像などに示される古典的でありながら豊かで甘美な官能性を感じさせる表現、明瞭で鮮やかな色彩で描かれる登場人物の衣服の描写はどれも秀逸の出来栄えをみせており、観る者を強く惹きつける。
関連:シモン・ヴーエ作 『若さと美に打ち負かされる時間の翁』
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