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若さと美に打ち負かされる時間の翁(時の敗北) 1627年
(Father Time Overcome by Love, Hope and Beauty (Temps vaincu))
107×142cm | 油彩・画布 | プラド美術館(マドリッド) |
17世紀フランスにおけるバロック様式の大画家シモン・ヴーエによる大作『若さと美に打ち負かされる時間の翁(時の敗北)』。画家のローマ滞在時最後の作品であり、芸術や文芸のよき理解者で庇護者もであったバルベリーニ枢機卿の文学的統治下によって誕生した本作に描かれるのは、「若さ(希望)」の擬人像と「美」の擬人像が老いを象徴する「時の翁」を討ち勝利する場面≪若さと美に打ち負かされる時間の翁≫で、時の翁の頭髪を掴みながら槍を振り上げる美の擬人像や、手にする鉤(かぎ)で時の翁に迫る若さの擬人像、時の象徴である砂時計を手に、鉄の大鎌を足下へ手放しながら必死で抵抗を試みる時の翁(なお時の翁は神々の長老サトゥルヌスと同一視される為、サトゥルヌスとも解釈される)など登場人物に示されるバロック様式の大きな特徴である躍動的で力動的な表現や画面構成は特筆に値する出来栄えである。ルネサンス期におけるヴェネツィア派最大の巨匠ティツィアーノ作『聖愛と俗愛』や、イタリア・バロック絵画ボローニャ派の画家アンニーバレ・カラッチによる天井装飾のための油彩画『岐路に立つヘラクレス』からの影響も一部の研究者から指摘されている本作ではあるが、先例(『聖愛と俗愛』、『岐路に立つヘラクレス』)のような古典様式の伝統の中に示される画家独自の表現というより、豊潤ながら軽快さを感じさせる(典型的な)バロック様式独特の表現が際立っている。
関連:ティツィアーノ作 『聖愛と俗愛』
関連:アンニーバレ・カラッチ作 『岐路に立つヘラクレス』
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