Description of a work (作品の解説)
2008/05/14掲載
Work figure (作品図)
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1足の靴(古靴、古びた靴)

 (Paires de Souliers) 1886年
37.5×45cm | 油彩・画布 | フィンセント・ファン・ゴッホ美術館

後期印象派の画家フィンセント・ファン・ゴッホ、パリ時代の代表作『1足の靴(古靴、古びた靴)』。本作はポール・ゴーギャンの回想によると、1877年、アムステルダムの神学校(大学)の受験を放棄し、ブリュッセルの福音伝道学校で新たに神学を学ぶ為に徒歩で同地へ向かったゴッホがその旅の途中で購入し、福音伝道学校でも三ヶ月で就学を諦め、1878年の12月に公式的な任命も無いまま、己の意思のみによって欧州有数の炭坑地帯であった、ベルギー南部のボリナージュの鉱山へ赴き、過酷な労働条件の中で働く労働者や病人の世話など慈善活動をおこなっていた、所謂「ボリナージュ滞在期」にゴッホが履いていた≪革靴≫を描いた作品である(又はパリ時代に購入した靴)。本作は印象派の登場以降、絵画芸術の先端を進んでいたでパリへ、ゴッホが絵画を学ぶ為に訪れた1886年の夏頃(又は後半頃)に制作されたと推測される作品で、荒々しく大胆な筆触ながら、皮が剥げ擦り切れた古びた靴の草臥れた状態や、過酷な状況下で使用され続けたことを容易に想像させる様子は、ほぼ的確にその形態が捉えられており、画家の描く対象(本作では靴)に対する写実的姿勢が明確に示されている。本作以降も、1886年末頃には『3足の靴』が、さらに1887年初頭〜中頃には(本作と同名称となる)『1足の靴(古靴)』が制作されており、ゴッホはパリ滞在時に複数(5点)本画題を手がけたことが知られている。ここで注目すべきは、バルビゾン派の画家ミレーの抑制的な色彩と、19世紀フランスの画家アドルフ・モンティセリの影響を感じさせる写実的対象表現の変化にある。本作や『3足の靴』では、激しく損傷した革靴の状態を冷静に観察し、的確に表現されているが、年が明けた頃に制作されたと考えられている『1足の靴(古靴)』には、それまでの写実性の中に装飾的な表現が示されており、特に画面左の靴に打ち込まれた底の滑り止め用の金具の表現や、右の靴の擦れた皺の線描表現には、それまでにはない画家の独自的表現を見出すことができる。また色彩表現においても、靴の底の橙色を始めとした暖色と、背景や床の青色(寒色)の対比的描写は特筆すべき点である。本作を始めとしたパリ時代に≪靴≫を描いた作品群はゴッホの表現手法の変化や、独自的表現への過程を示している点で、この時代を代表する≪画家としての自画像≫であるとも解釈することができる。なお本作に描かれる古靴の解釈については農民の靴とする説のほか、両方とも左足用の靴にも見えるため、画家自身と弟テオを表すとする説が唱えられている。

関連:フォッグ美術館所蔵 『3足の靴』
関連:ボルティモア美術館所蔵 『1足の靴(古靴)』


【全体図】
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ゴッホがボリナージュ滞在期に履いていたとされる革靴。荒々しく大胆な筆触ながら、皮が剥げ擦り切れた古びた靴の草臥れた状態や、過酷な状況下で使用され続けたことを容易に想像させる様子は、ほぼ的確にその形態が捉えられており、画家の描く対象に対する写実的姿勢が明確に示されている。



【ゴッホが履いていたとされる革靴】
複雑に絡み合う革製の靴紐。本作以降も、1886年末頃には『3足の靴』が、さらに1887年初頭〜中頃には(本作と同名称となる)『1足の靴(古靴)』が制作されており、ゴッホはパリ滞在時に複数(5点)本画題を手がけたことが知られている。



【複雑に絡み合う革製の靴紐】
的確に描写される光の反射。本作を始めとしたパリ時代に≪靴≫を描いた作品群はゴッホの表現手法の変化や、独自的表現への過程を示している点で、この時代を代表する≪画家としての自画像≫であるとも解釈することができる。



【的確に描写される光の反射】

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