■
女性大浴女図(浴女たち)
(Les grandes baigneuses) 1884-1887年
115×170cm | 油彩・画布 | フィラデルフィア美術館
印象派の巨匠ピエール=オーギュスト・ルノワール枯渇時代随一の大作『女性大浴女図(浴女たち)』。(この頃の画家の作品に不満を持っていた)デュラン=リュエルの好敵手的存在であったジョルジュ・プティの画廊で展示された本作は、シュザンヌ・ヴァラドン(画家の代表作『
都会のダンス』でもモデルを務めた)をモデルに女性らの地中海沿岸での水浴場面を描いたもので、画家の印象主義からの脱却と古典主義(又はアカデミズム)的な表現への傾倒を示した所謂、≪枯渇時代≫の集大成的な作品としてルノワールが最も力を注いで制作した作品である。本作は18世紀の彫刻家フランソワ・ジラルドンが手がけたヴェルサイユ宮殿噴水の装飾(浮き彫り)から構図の着想を得ていたことが知られており、また裸婦像の描写は18世紀のロココ美術の巨匠
ブーシェや
フラゴナール、
新古典主義の大画家
アングルらの作品に強く影響を受けている。入念に計算された写実的な人物の描写や構成、流麗な輪郭線、非常に明瞭ながら冷艶さや甘美性も兼ね備える色彩(イタリア旅行で触れた
ラファエロやボンペイなどのフレスコ画の影響をうかがわせる)と、この頃ルノワールが模索していた新たな表現・描写様式が至る所に感じられる本作ではあるが、動きのある躍動的な人物の姿態の描写や背景の非写実的な表現に印象主義的な自由性と瞬間性も見出すことができる。結果としてわざとらしい演劇的な表現となった本作は、印象派の中心的存在であった画家
カミーユ・ピサロからは「線を重視するあまり、人物は背景と分離し各々がばらばらとなっている。また色彩への配慮も欠け調和なき表現へと陥っている。」と批判的な声が上がり、批評家や収集家たちからは敬遠されたものの、画家の友人で本作を手がける前年、共に南仏を旅行した
クロード・モネは理解を示したとされているほか、プティの画廊の顧客層であり、このような保守的な趣味を好んだ中流階級層の人々には好意的に受け入れられた。