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長い首の聖母 (Madonna dal collo lungo) 1535年頃
216×132cm | 油彩・板 | ウフィツィ美術館(フィレンツェ) |
マニエリスムを代表する画家パルミジャニーノが手がけた同様式の傑作『長い首の聖母』。宗教画としは極めて異質な部類に入る、このパルミジャニーノの名画は、美の新たな可能性を追求したマニエリスムという時代に描かれる作品群の大きな様式的特徴である、極端に強調された遠近法、引き伸ばされ捩れを有する独特の人体構造が顕著に示され、それは同時にパルミジャニーノの傑出した表現力と世界観を表すものでもある。本作は数年間に渡った芸術の都ローマでの滞在を終え、故郷であるパルマへ戻って描かれた作品で、ローマ時代に触れたラファエロの影響を随所に感じられるものの、極端に引き伸ばされた象牙を思わせる危うく妖艶ながら極めて美麗な肢体はルネサンスに始まった自然への回帰と古典美術様式を、いとも容易く超越し、芸術家の理想に富んだひとつの美の可能性を体言している。また本作は画面奥の衣服を巻きつける男に見られるよう、一部は未完のままである。聖母マリアの頭部を頂点とした爪先までの身体の流れは、流麗なS字の曲線を形成し、それは人間が感覚的に美しいと感じられる形のひとつを示すものでもあった。ルネサンスの自然的で人間らしさを探求する様式は消え、どこか人工的な印象を思わせる本作の聖母マリアはそれ自体が非現実的であり、同時に理想像でもある。
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