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幻を呼び出すオシアン
(ローラの岸辺で霊を召喚するオシアン)
(Ossian évoque les fantomes) 1800-01年
184.5×194.5cm | 油彩・画布 | ハンブルク美術館
18世紀フランス新古典主義の重要な画家フランソワ・ジェラールを代表する歴史画作品のひとつ『幻を呼び出すオシアン(ローラの岸辺で霊を召喚するオシアン)』。パリ近郊マルメゾン城館「黄金の間」の装飾画として制作された本作は、ロマン主義者たちに多大な影響を与えた主題としても知られ、古代ケルト族が残した叙事詩とされるものの、叙事詩の発見者ジェイムズ・マクファーソンの信憑性について当時から疑問視されており、現在では発見者の創作として考えられる叙事詩の架空の著者≪オシアン≫を主題とした作品で、対の作品として画家の同門(
ジャック=ルイ・ダヴィッドの弟子)となる
アンヌ=ルイ・ジロデ=トリオソンが『
フランスの英雄の霊魂を受けるオシアン』を制作している。画面下部中央より左側へ配されるオシアンはローラの岸辺で古代の英霊を召喚するため、竪琴を一心不乱に奏でるかのような仕草をみせており、盲人であるため眼を瞑っているもののその表情は鬼気迫る感情性を見出すことができる。また召喚される英霊たちはオシアンの周りを取り囲むように配され、各々が様々な姿態で描写されている。本作で最も注目すべき点は、
ダヴィッドの弟子の中で最も新古典主義に忠実な画家であるジェラールの作品の中でも、優れた光彩描写によって特にロマン主義的な感傷性や叙情性が示される点にある。画面最前景に配されるオシアンは逆光で描写することによって、人物の動作と内面の双方を際立たせることに成功しており、その背後的位置に配される英霊らは、おぼろげながら強く存在感を示す光に包まれ、あたかも英霊自身が放つ威光のような印象を観る者に与えている。なお本作は1818年にサロンへも出品されている。
対画:
ジロデ作 『フランスの英雄の霊魂を受けるオシアン』