Description of a work (作品の解説)
2009/11/27掲載
Work figure (作品図)
■ 

宵の明星

 (The evening star (Vesper)) 1830年
92×122.5cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

英国ロマン主義を代表する画家ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー作『宵の明星』。本作はターナーが独自の表現様式を開眼させたイタリア旅行後に制作された、画家が強い愛着を抱いていた故郷ロンドンを流れるテムズ川の河口付近での漁の光景を画題とする作品で、本作は細部の描写的特長から未完成であるとする意見が大半を占めているものの、当時の批評として「何も苦心も感じさせないが、芸術的観点からは真に称賛されるべき作品である」と述べられているよう、そこに描かれる閑散かつ静寂とした雰囲気や微妙に変化する夕暮れの陽光の色彩など注目すべき点は多い。画面中央やや右側にはテムズ川で漁を終えたのであろう漁の道具(又は獲れた魚)を籠にしまいながら浜へと上がってくる幼い漁師(少年)が単身で配されており、その足下では無邪気な様子で犬が一匹描き込まれている。また少年らとほぼ対称の位置(画面左側)へは航路標識となる海中に立てられた長細い三本の木柱が描かれている。本作に描き込まれる要素はこの漁師の少年と木柱以外、水面、浜、雲(空)しか存在せず、画家の作品の中でも非常に簡素な構成であるものの、本作ではそのシンプルな構成であるが故の引き算的な美的感覚を明確に感じることができる。画面右側で沈みゆく太陽は空を赤色に染めている。赤々とした太陽付近の空は光の影響が遠退くほど黄色、そして灰色へと微妙に変化しており、画面左側部分の色彩には夜の到来を感じずにはいられない。さらにその色彩はテムズ川の水面にも映り込み深い色合いを示している。空、水面、そして赤茶けた浜辺へと続く色彩の繊細で多様な変化は薄い半透明の色を何層にも重ねる技法を用いた表現手法であり、そこには画家の技量的成熟を強く感じることができる。


【全体図】
拡大表示
暮れる太陽が作り出す微妙な色彩の変化。本作はターナーが独自の表現様式を開眼させたイタリア旅行後に制作された、画家が強い愛着を抱いていた故郷ロンドンを流れるテムズ川の河口付近での漁の光景を画題とする作品である。



【微妙な色彩の変化】
漁を終え帰路へとつく漁師の少年。当時の批評として「何も苦心も感じさせないが、芸術的観点からは真に称賛されるべき作品である」と述べられているよう、そこに描かれる閑散かつ静寂とした雰囲気や微妙に変化する夕暮れの陽光の色彩など注目すべき点は多い。



【帰路へとつく漁師の少年】
テムズ川水面の深い色調。空、水面、そして赤茶けた浜辺へと続く色彩の繊細で多様な変化は薄い半透明の色を何層にも重ねる技法を用いた表現手法であり、そこには画家の技量的成熟を強く感じることができる。



【テムズ川水面の深い色調】

Salvastyle.com 自己紹介 サイトマップ リンク メール
About us Site map Links Contact us

homeInformationCollectionDataCommunication
Collectionコレクション
作品イメージ