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出現
(L'Apparition) 1874-1876年
105×72cm | 水彩・紙 | ルーヴル美術館(パリ)
19世紀フランスにおいて孤高的な存在であり、かつ象徴主義の先駆者としても見做される画家ギュスターヴ・モローが50歳の時に制作した傑作中の傑作『出現』。『
ヘロデ王の前で踊るサロメ』と共に1876年のサロンへ出品され、賛否両論を巻き起こしたことでも知られる本作に描かれる主題は、ユダヤ王ヘロデ=アンティパスの姪で、その後妻ヘロデヤの娘サロメがヘロデ王の前で踊り、褒美として、洗礼者ヨハネ(バプテスマのヨハネ)の首を求めたとされる場面≪ヘロデ王の前で踊るサロメ≫であるが、本作では斬首された洗礼者聖ヨハネの首がサロメの目前に出現するという画家独自の解釈に基づきながら、非常に象徴的かつ幻想的に場面を構成しているのが大きな特徴である。近景には、本作の画題的主要素である出現した洗礼者聖ヨハネの首が画面中央よりやや右側へ、洗礼者聖ヨハネの首と対峙する、装飾性と神秘性に富んだ呪術師風な衣服を身に着けるサロメが画面中央より左側へ配され、ヘロデ王や従者たちは近景よりやや奥へ空間的距離を置いた位置へ背景的に扱われながら、綿密に計算された構成に基づき描き込まれている。本作において最も考察すべき点は斬首された洗礼者聖ヨハネの首と毅然と立ち向かうサロメの存在的意味にある。輝きを帯びた洗礼者聖ヨハネの首は、その存在と思想的意義が死を超越するものとしての象徴化、首元から生々しく鮮血が滴る出現した洗礼者聖ヨハネの首に臆することなく視線を向ける凛々しく妖艶なサロメの姿は永遠の女性像、官能性、そして何より卑俗的意味や善悪双方の功罪を含む清濁とした聖性の象徴化を見出すことができる。さらに本場面全体としては、混沌とした死と生と性の深い関係性が感じられる。19世紀フランスの小説家ジョリス=カルル・ユイスマンスの代表作『さかしま』内で称賛される本作の主題≪サロメ≫は(当時、熱狂的な愛好家たちからの要望などもあり)画家自身によって複数手がけられており、本作以外にも、フォッグ美術館に所蔵されるひと回り大きい『
出現』や、パリのギュスターヴ・モロー美術館が所蔵する『
出現』のほか、『
ヘロデ王の前で踊るサロメ』、『
踊るサロメ(刺青のサロメ、入れ墨のサロメ)』などが広く知られている。
関連:
フォッグ美術館 『出現』
関連:
ギュスターヴ・モロー美術館 『出現』
関連:
アーマンド・ハマー美術館 『ヘロデ王の前で踊るサロメ』
関連:
ギュスターヴ・モロー美術館 『踊るサロメ』