Description of a work (作品の解説)
2009/06/22掲載
Work figure (作品図)
■ 

イアソン

 (Jason) 1865年
204.1×115.5cm | 油彩・画布 | オルセー美術館(パリ)

象徴主義の孤高なる巨匠ギュスターヴ・モロー初期の典型的な作例のひとつ『イアソン』。1865年のサロン出品されメダルを獲得した作品である本作は、叔父から王位を継ぐために、アイエテス王の宝物である金羊毛皮を守護する怪物を退治するイオルコスの王子≪イアソン≫を描いた神話画作品である。かつて旅行したイタリアで最初に手がけたジョヴァンニ・アントニオ・バッツィ(通称ソドマ)の同名の作品に基づく模写作品『アレクサンダーとロクサネの結婚』の姿態の流用が認められる本作では、画面中央へ右手を掲げ己の勝利を確信するイアソンの堂々たる姿が配されており、そのすぐ後ろにはイアソンに恋心を抱いたアイエテス王の娘メディア王女が眠り薬(※イアソンはメディアが怪物に眠り薬を飲ませて深い眠りについたところを退治したとされている)を手にしながら寄り添っている。イアソンの足下には折れた槍が刺さり絶命する怪物が配されているが、伝説上では龍とされる怪物は本作では鷲の上半身と獅子の下半身をもつグリフォンの姿で表現されている。ルネサンス期の古典的表現に基づいた優美的なイアソンやメディアの姿態や装飾的で幻想的な場面表現、金杯や盾などの小物類の緻密な描写なども特筆に値する出来栄えではあるものの、本作で最も注目すべき点はイアソンとメディアの関係性にある。本作の主役は題名からも右手を高らかと掲げ勝利を宣言するイアソンであるものの、その姿にはどこか若輩さを感じさせ、背後のメディアに導かれて(操られ)の勝利であるかのような印象すら感じることができる。メディアのイアソンに向けられる視線も恋心が高まりもはや偏執的な愛へと変貌したかの如く、病的な執着性を見出すことができる(事実、その後イアソンは別の女性との結婚を試みるものの、メディアによって別の女性は殺害されてしまう)。このように悲劇的運命にある両者の後の関係性をも予感させるイアソンとメディアの姿が、画家の卓越した表現力によって本作中にありありと示されているのである。

関連:『アレクサンダーとロクサネの結婚』


【全体図】
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若きイアソンの姿と寄り添うメディアの姿。1865年のサロン出品作品である本作は、叔父から王位を継ぐために、アイエテス王の宝物である金羊毛皮を守護する怪物を退治するイオルコスの王子≪イアソン≫を描いた神話画作品である。



【若きイアソンと寄り添うメディアの姿】
怪物を眠らせた薬を持つメディア。本作の主役は題名からも右手を高らかと掲げ勝利を宣言するイアソンであるものの、その姿にはどこか若輩さを感じさせ、背後のメディアに導かれて(操られ)の勝利であるかのような印象すら感じることができる。



【怪物を眠らせた薬を持つメディア】
折れた槍が刺さり絶命する怪物。イアソンの足下には折れた槍が刺さり絶命する怪物が配されているが、伝説上では龍とされる怪物は本作では鷲の上半身と獅子の下半身をもつグリフォンの姿で表現されている。



【折れた槍が刺さり絶命する怪物】

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