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ビザンティン風の頭部:ブルネット
(Byzantine Head : Brunette) 1897年
52.5×37cm | リトグラフ | 所蔵先複数
アール・ヌーヴォー様式を代表する画家アルフォンス・ミュシャの傑作『ビザンティン風の頭部:ブルネット』。1897年に2対の連品として制作された≪ビザンティン風の頭部≫を画題とした作品の中の1点である本作は、≪ブルネット(褐色)≫と題されるよう、(本作では黒に近い色から濃淡法を用いた)褐色的な髪の女性をモデルとした異国趣味(東洋風)的作品である。画面中央の円の中にはブルネット(褐色)の髪が美しい端整な顔立ちの女性が配され、その視線を正面(画面的には右側)へ向けている。やや波打った長いブルネットの髪の毛先は画面周囲のアール・ヌーヴォー的な草木をモチーフとした装飾と呼応するかのように巻いている。これらミュシャ特有の優美な女性像も特筆に値する出来栄えであるが、本作で最も注目すべき点は、ビザンティン文化に着想を得た神秘性漂う装飾性にある。本作の名称にある≪ビザンティン風≫とは、4世紀末から15世紀中頃まで東欧〜コンスタンティノープル(イスタンブール)を中心に大地域を支配したビザンティン帝国(東ローマ帝国)の美術様式で、ビザンティン文化の東方正統教会(オーソドックス)文化に基づいた壮麗で格式高い装飾性は、ミュシャの祖国にも通じる文化様式であった。本作に描かれる女性の頭部を飾る、華麗で豪奢な金細工と色鮮やかな宝石で構成される月や花をモチーフとした髪飾りは、今でも観る者の目を強く惹きつける。さらに注目すべきは髪飾りの色彩構成にあり、黄金の黄色と印象的な赤色が互いに引立て合うことで、観る者の視線を髪飾りへと自然に誘導させている。
関連:
対画 『ビザンティン風の頭部:ブロンド』