Description of a work (作品の解説)
2009/11/30掲載
Work figure (作品図)
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ベアトリーチェ

 (Beatrice) 1895年頃
34.5×30cm | パステル・紙 | 個人所蔵

19世紀末に隆盛したフランス象徴主義の孤高なる大画家オディロン・ルドン作『ベアトリーチェ』。本作は古典イタリア文学の最高傑作である長編叙事詩『神曲』の著者として名高い、初期ルネサンスに活躍したイタリアの詩人ダンテ・アリギエーリが恋焦がれた永遠の女性≪ベアトリーチェ≫を描いた作品である。ダンテの代表作『新生』、『神曲』にも登場するベアトリーチェは、通説によればフィレンツェの名家ポルティナリ家の詩人フォルコの娘として生を受け、青年期にダンテの愛を拒絶し、裕福な銀行家シモーネ・デ・バルティと結婚するものの、数回の出産の後(おそらくは産褥熱によって)24歳の若さで夭折した女性で、ダンテはベアトリーチェの死後、彼女を永遠の淑女として生涯の中で賛美し続けることを誓うなど、偉大なる詩人の創作の原動力ともなっていた。本作に描かれるややメランコリックな表情を浮かべるベアトリーチェの横顔からも、そのような永遠の淑女像としての印象を、さらにはファム・ファタル(運命の女)的な象徴性を感じることができる。しかし本作で最も注目すべき点は、このような主題に対する象徴性というよりも、黒の時代を経由し、次男アリ・ルドンの誕生と共に開花させた鮮明な色彩表現にある。画面中央へ描かれるベアトリーチェは明瞭な黄色の色彩が用いられているが、後頭部から後首筋にかけてはやや赤味を帯びた色味が混色され観る者には橙色に映る。そしてベアトリーチェに用いられる黄色や橙色と補色関係にある清涼的な青色を背景(空)色として用い、さらにそれらの境目には薄桃色の硬質的な山脈や空を漂う雲が配されている。主要な色彩数としては非常に少なく、作品自体の構成要素も極めて簡素な本作ではあるが、視覚的な感覚を最大限に活かす本作の色彩対比は秀逸の出来栄えであり、今も観る者を魅了する。


【全体図】
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メランコリックな表情を浮かべるベアトリーチェ。本作は古典イタリア文学の最高傑作である長編叙事詩『神曲』の著者として名高い、初期ルネサンスに活躍したイタリアの詩人ダンテ・アリギエーリが恋焦がれた永遠の女性≪ベアトリーチェ≫を描いた作品である。



【憂鬱な表情を浮かべるベアトリーチェ】
ベアトリーチェに被せられる髪飾り。本作に描かれるややメランコリックな表情を浮かべるベアトリーチェの横顔からも、そのような永遠の淑女像としての印象を、さらにはファム・ファタル(運命の女)的な象徴性を感じることができる。



【ベアトリーチェに被せられる髪飾り】
清涼的な青空と幻想的な桃色の山脈。主要な色彩数としては非常に少なく、作品自体の構成要素も極めて簡素な本作ではあるが、視覚的な感覚を最大限に活かす本作の色彩対比は秀逸の出来栄えであり、今も観る者を魅了する。



【清涼的な青空と幻想的な桃色の山脈】

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