2009/10/15掲載
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笑う蜘蛛(L'araignee souriante) 1881年49.5×39cm | 木炭・紙 | オルセー美術館(パリ)
眼を見開き観る者と対峙する黒蜘蛛。同時代の小説家ユイスマンスの傑作≪さかしま≫内に「身体の中心に人間の顔を宿す驚くべき蜘蛛」と表現されたこともあり、人々の注目を集めることになった本作には薄暗い空間の中へ顔と胴体が一体となった非常に足の長い黒蜘蛛が配されるのみであり、わずかに背景として描き込まれているのはタイル的な床だけである。
【眼を見開き観る者と対峙する黒蜘蛛】
薄気味の悪い笑みを浮かべる口元。この黒蜘蛛とその笑みは、ルドン、そして人間誰しもの心(精神)の奥底(又は心の闇)に潜む欲望や嫉妬など、知性や理性と対極にある存在の象徴として具象化された生物であり、そのような側面から考察すると黒蜘蛛の浮かべる薄笑みは本作と理性を以って対峙する観る者をあざ笑っているかのようでもある。
【薄気味の悪い笑みを浮かべる口元】 画面の端へと伸びる細く長い足。ルドンは≪黒≫という色を、生命や肉体、精神などあらゆる面における正負的な力の本質的な色彩と捉えており、心の内面に棲む存在(本作では蜘蛛という生物)を黒色で表現しているは、すなわち心の原動であるということに他ならない。
【画面の端へと伸びる細く長い足】 |