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辻音楽師の喧嘩 (Rixe de musiciens) 1625-30年頃
94×104.1cm | 油彩・画布 | J・ポール・ゲッティ美術館 |
フランス古典主義の大画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥール初期の代表的作品のひとつ『辻音楽師の喧嘩』。本作に描かれる画題は主に北方の絵画に見られた≪乞食が乞食を妬む≫であると考えられており、この教訓的な寓意的風俗主題の展開からラ・トゥールと北方の画家らと関係性を指摘する研究者も少なくない。本場面は道を行き交う人々を相手に演奏する辻音楽師の2人が喧嘩をしている姿を描いたものである。画面中央で盲人を装うヴィエル(古式ヴァイオリン)奏者がフルート奏者に襲いかかっているが、フルート奏者は右手に持つ檸檬の汁を絞り、ヴィエル奏者に浴びせかけ抵抗している。この檸檬の汁を相手の顔面(眼)に浴びせる姿は盲人を装うヴィエル奏者の偽りを暴く為の動作であり、本場面の最も注目すべき点のひとつである。また2人の周囲には嘆き悲痛の表情を浮かべる(ヴィエル奏者)の連れ合い(画面左端の老婦)、喧嘩を見て嘲笑するバグパイプ奏者やヴァイオリン奏者(画面右端で観る者と視線を交わす男)が描かれており、特に嘲笑する2人の男はラテン語の諺である本画題≪乞食が乞食を妬む≫を教訓的に暗示する重要な役割を果たしてる。本作に示される(カラヴァッジョに通ずる)圧倒的な自然主義的写実性や、やや厚塗りの筆触、頭部を平行線上に配した動的要素の少ない画面構成などから、画家の画業の初期である1625-30年頃に制作されたと推測されている。
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