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老婆(老婦、老女) (Vieille femme) 1616-1618年頃
91.5×60.5cm | 油彩・画布 | サンフランシスコ美術館 |
フランス古典主義の中でも特に重要な画家のひとりジョルジュ・ド・ラ・トゥールの対画作品『老婆(老婦、老女)』。本作は対画となる『老人』同様、1949年にスイスで発見された作品で、その主題についても、『老人』と同じく、古い北方の民衆劇の登場人物の中、弱気な夫ダンドンに対して高圧的な態度で接する妻アリゾンとする説など現在までに諸説唱えられているが、いずれも確証を得るには至っていない。『老人』では長い木の杖のみはあるものの、この対画の解釈の手がかりとなるアトリビュートの存在が確認できる。しかし本作にはそのような図像・象徴となる描写は一切認められず、唯一、この老婆が見せる威圧的で傲慢な仕草のみが、本作の解釈の糸口となり得る要素である。画面中央に全身像で描かれる老婆は腰に手を当て堂々と仁王立ちしており、その姿からは勝気で偉そうに振舞う性の悪い性格を想像させる。そして画家の特徴的な強く明暗の大きな光の効果によって、それをより鮮明に観る者へと印象付ける。また老婆が下半身に着ける、細かな装飾が施された(前掛けのような)の衣服や、白い袖の複雑によった皺など細部の精密で非常に写実性の高い描写は、画家が若い頃から並外れた技術を会得していたことの表れである。さらにこの対画の大きな特徴のひとつである、ほぼ画面中央から明部と暗部が明確に分けられ描かれる背景の処理や、対象(人物)へ同一方向から当てられる光源などラ・トゥールの他の作品との共通点も見られるなど、今後の更なる調査・研究が待ち望まれている。
関連:対画 『老人』
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