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聖エラスムスの殉教 (Le Martyre de Saint Erasme)1629年
320×186cm | 油彩・画布 | ヴァティカン宮美術館 絵画館 |
古典主義の大画家ニコラ・プッサン初期の代表作『聖エラスムスの殉教』。教皇庁の依頼によりサン・ピエトロ大聖堂祭壇画のひとつとして制作された本作は、元々イタリアバロック美術の巨匠ピエトロ・ダ・コルトーナに依頼予定であったが、同氏が聖秘蹟礼拝堂の祭壇画制作に携わることになった為、フランチェスコ・バルベリーニ枢機卿の後押しで、当時、新鋭の画家のひとりであったニコラ・プッサンが制作を請け負うこととなり、描かれた作品である。そのためピエトロ・ダ・コルトーナが≪聖エラスムスの殉教≫を描く為に構想し残した素描の構図の影響が本作には色濃く反映されている。本作に描かれる主題≪聖エラスムスの殉教≫とは、十四救難聖人のひとりで(初期キリスト教時代の)フォルミアエの司祭でもある聖エラスムスが、当時のローマ皇帝ディオクレティアヌスの迫害により、爪の指に錐を刺す、鉄板の上で焼かれる、煮油を浴びせられるなどの拷問を受けた後、腹を切り裂かれ巻轆轤(まきろくろ)、又は揚錨機(綱を巻き取る機械。ウィンドラスとも呼ばれる)で内臓を引きずり出され殉教したとされる伝説で、異教の神像を指差す僧や、躍動感に富んだ構図展開に、明らかなピエトロ・ダ・コルトーナによる素描からの引用・参考が認められるものの、明るく鮮やかな色彩や計算された色彩配置、正確な人体描写、深い陰影を用いない明瞭な光彩表現などに(おそらくは)ティツィアーノの作品から得た若きニコラ・プッサンの様式的独自性が示されている。
関連:ピエトロ・ダ・コルトーナによる素描『聖エラスムスの殉教』
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