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楓図壁貼付
(Maple Tree) 1593年頃
各172.5×139.5cm | 紙本金碧・4面 | 智積院(京都市東山)
安土桃山時代随一の絵師、長谷川等伯50代の代表作、国宝『楓図壁貼付』。絵師の息子であり、父に勝るとも劣らぬほどの画才を発揮した長谷川久蔵ら長谷川一門と共に、豊臣秀吉の三歳で夭折した長男、鶴松の菩提を弔うために建立された京都の祥雲寺(現在の智積院)の客殿障壁画のひとつとして、勢力を尽くし制作された本作は、雄雄しく大地に立つ楓の巨木を描いた作品である。本作には対となる作品『
桜図』も描かれており、署名など確実な証拠は残されていないものの、等伯が『
楓図』を、息子久蔵が『
桜図』を制作したと推測されている(いずれも国宝指定されている)。智積院は1682年に大火事により建物が焼失し、幸いにも障壁画部分の大部分は焼け残ったものの、再建された智積院の寸法に合わせる為に裁断・接合されている為、現在は全体像を確認することは叶わない。本作の画面から飛び出さんとする楓の巨木表現は、秀吉好みの大画様式であるものの、紅葉の葉や木犀、鶏頭、萩、菊が色彩豊かに入り乱れる装飾的表現や、自然的躍動感に溢れる豪壮かつ繊細な描写は長谷川一門的大画様式とも呼べる、独自の様式を呈している(久蔵作とされる『
桜図』では、胡粉によって盛り上げられる桜花や絢爛たる端麗性など、より装飾的表現が顕著に表れている)。さらに金碧の背景に映える群青色で描かれた流水の流線の優美性、重量感を感じさせる画面下の岩の硬質性、生命感に溢れる巨木や草花の生命感、長い年月の経過を感じさせる木肌の質感など、画面内における対照性と調和性の見事さも特筆に値する。また本作から感じられる等伯独特の自然に対する抒情性や美的敬意の念、狩野派への対抗意識の高さも観る者の目を奪う要因のひとつである。
関連:
『楓図壁貼付』全体図/
左隻拡大図/
右隻拡大図
関連:
『桜図襖貼付』全体図/
左隻拡大図/
右隻拡大図
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