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階段の聖母 (Madonna della scala) 1522年頃
177×135cm | 油彩・板 | プラド美術館(マドリッド) |
安定した構図と表現から、16世紀末まで古典的範例として、数多くの模写が残されている、アンドレア・デル・サルトの典型的な作品『階段の聖母』。ロレンツォ・ヤコピの為に制作され、その後、マントヴァ公、英国王チャールズ1世を経て、スペイン王フェリペ4世が手にした経緯を持つ本作の主題は、三角形の構図の頂点に聖母子を、その下に諸聖人や天使を配する典型的な≪聖会話≫であり、レオナルド・ダ・ヴィンチからの影響である柔らかい光彩と、スフマート(ぼかし技法)による輪郭の表現は、当時の近代性を示すものであり、すでに名を馳せていたアンドレア・デル・サルト作品の、アカデミーにおける良き作例として、常に重用されていた。また聖母マリアの不安げで、やや陰鬱な感情の表現は、画家のマニエリスム的な一面として捉えられる。また降臨した天使と会話を交わす幼子イエスの姿。この聖母子を頂点とした、ラファエロの聖母子画を思わせる三角形の構図は、アカデミーにおける良き作例として当時から数多くの模写・模倣がおこなわれた。本作中、最も特徴的な穏やかな情景の中に描かれた聖母の表情は、これからイエスが歩んでゆく波乱と苦難に満ちた救いへの人生への暗示と解釈される。
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