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死の勝利 (The Triumph of Death) 1562年頃
117×162cm | 油彩・板 | プラド美術館(マドリッド) |
初期ネーデルランド絵画の巨匠であるピーテル・ブリューゲルの代表的作例のひとつ『死の勝利』。署名や年期は残されていないものの、全ての者に訪れ蹂躙する死の圧倒的な存在と、それに対する人々の儚い抵抗という陰惨な主題から、おそらくは当時の社会において強さを増した女性たちに対する画家の鋭い考察と風刺が示される『悪女フリート』や、善徳と悪徳の対決を描いた『叛逆天使の墜落』と同時期(1562年頃)に描かれたと推測される本作は、当時ネーデルランド地方で制作された伝統的な木版画と、イタリア滞在時に同地で見た同主題の作品から構想を得ていることが指摘されている。本作に示される骸骨の姿で表現された≪死≫の象徴(運び手)たちは、画面内のあらゆる場面で身分を問わず全ての人々を蹂躙し、支配している。画面左下部では人間の王が≪死≫の象徴によって生命と、その財産(金貨)が強奪され、画面下中央から右部分においては、集団化した≪死≫の象徴が、人間の生と喜びを象徴する≪晩餐≫を破壊し強奪や姦淫を犯しながら進軍している。そこで剣を手にとり必死に抗う人間の姿が描かれるも、大軍の前には虚しい抵抗であることが窺い知れる。このような(画家の独創性を示す)陰惨で絶望的な場面描写によってピーテル・ブリューゲルは逃れられない≪死≫の圧倒的な存在を示しているのである。
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