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聖母の死 (The Death of the Virgin) 1481年頃
146.71×21.1cm | 油彩・板 | ブルッヘ市立美術館 |
ヤン・ファン・エイク、ロヒール・ヴァン・デル・ウェイデン以降の初期ネーデルランド絵画第2世代最大の巨匠ヴァン・デル・フースが最晩年に描き残したとされる傑作『聖母の死』。当時のネーデルランドで最も人気の高かったヴァン・デル・フースが40歳近くになって突如ローデンダーレ修道院に入った数年後、同修道院内で描かれた本作は大天使ミカエルから自身の臨終を聖告され、最後に今一度、息子イエスの弟子達に会いたいと願い、皆が雲に乗って集まった中その三日後にその時を迎えた、聖母マリアの生涯の物語の中で最も悲壮感に溢れる場面≪聖母の死≫であるが、ヴァン・デル・フースが晩年、強迫観念的に感じていたとされる全ての人間に訪れる絶対的な死への恐怖と、生きることへの不安が登場人物の心理描写に見事表現されている。本作では生気を全く感じさせない絶対的な聖母マリアの臨終を以って表されている生けるものへ必ず訪れる≪死≫と、それを取り囲む生ける人々である聖母の死の床を訪れたイエスの弟子達の抱く深い悲しみや、将来の仲間や自身の死への漠然とした不安が画面の中で異様な雰囲気を醸し出している。また画面上部に示される死した聖母の魂と肉体を迎えに来た無髭の主イエスと天使たちは白昼夢のように表現されるなど、本作にはヴァン・デル・フース自身の精神状態も如実に示されている。
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