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Introduction of an artist(アーティスト紹介)

ロヒール・ヴァン・デル・ウェイデン Rogier van der Weyden
1399/1400-1464 | ネーデルランド | 初期ネーデルランド絵画

初期ネーデルランド絵画史を代表する大画家。同朋の偉大なる先人であり初期ネーデルランド絵画の革新者でもあったロベルト・カンピンの弟子。ウェイデンの様式は同時代最大の巨匠ヤン・ファン・エイクに比べ写実性は劣るも、それを補って余るほどの深い精神性を携えた、師ロベルト・カンピンからの影響である彫塑的人物表現や既に時代遅れとなっていたゴシック的表現を組み合わせ独自の世界観を示し、晩年期には曲線を多様した悲観的表現によって高い支持を得た。画家としては1427年にのロベルト・カンピン工房へ入り、1432年に独立、数年後ブリュッセルへと移住した後、各地で活躍。1450年頃にイタリアへ赴いたことも文献から指摘されているも、その詳細は不明。作品数は確実に帰属が判明しているものは3点、様式上帰属されるものが60点余り。またヒューホ・ヴァン・デル・フースハンス・メムリンクなど後世に活躍する画家を育てるほか、15世紀の初期ネーデルランド絵画の画家の多くがウェイデンの様式の規範とした。


Work figure (作品図)
Description of a work (作品の解説)
【全体図】
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聖母を描く聖ルカ (St.Luke Painting the Virgin) 1435年頃
135.3×108.8cm | 油彩・板 | ボストン美術館

ロヒール・ヴァン・デル・ウェイデン初期の傑作『聖母を描く聖ルカ』。おそらくは当時、ネーデルランドに設立されたばかりの聖ルカ画家組合のために手がけられた作品であると推測される本作に描かれるのは、ルーヴル美術館が所蔵する同朋の大画家ヤン・ファン・エイクの代表作『宰相ニコラ・ロランの聖母子』通称≪オータンの聖母子≫の構図を原型に、聖母マリア姿を正確に描いたとされる福音書記者≪聖ルカ≫の伝説的な逸話の場面である。幼子イエスを抱いた聖母マリアの静謐で慈悲に溢れた精神性の深い表情や、それを描写する聖ルカの真摯で落ち着いた眼差し、『宰相ニコラ・ロランの聖母子』の影響を如実に示す中央の背を向けた男女の配置、エイクには若干劣るも極めて高度な細密描写によって表現される遠景にウェイデンの大きな特徴を見出すことができるほか、画面全体を支配するウェイデン独特の世界観は、本作における優れた魅力のひとつである。また本作にはアルテ・ピナコテーク所蔵版エルミタージュ美術館所蔵版、ウィルクゼク伯コレクション版と、合計三点のレプリカが確認されているも、現在はボストン美術館が所蔵する本作がウェイデンが手がけた『聖母を描く聖ルカ』として最も真作に近いとされている。

関連:アルテ・ピナコテーク所蔵『聖母を描く聖ルカ』
関連:エルミタージュ美術館所蔵『聖母を描く聖ルカ』

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【全体図】
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十字架降下 (The Descent from the Cross) 1443年以前
220×262cm | 油彩・板 | プラド美術館(マドリッド)

初期ネーデルランド絵画の大画家ロヒール・ヴァン・デル・ウェイデンを代表する傑作『十字架降下』。おそらくルーベンの聖堂の為に制作され、同聖堂へ寄贈後、スペイン国王フェリペ2世の手に渡った本作の主題は、磔刑に処され死した主イエスを十字架から降ろすキリストの受難中、最も重要な場面≪十字架降下≫として描いたものであるが、本作では同時に聖母の同感悲哀を表現している。少なくとも2点のコピーが現存(シント・ペーテル聖堂所蔵、エル・エスコリアル宮所蔵)し、当時から最も模写された作品のひとつであった本作では、壁龕(へきがん-壁・柱の垂直面に彫った彫刻等の装飾。)を模すことによる彩色木彫の効果が死した主イエスや聖母マリアを始めとした10人の登場人物に示され、精神的な中心を効果的に対象へと向けている。また美術史家カレル・ヴァン・マンデルによる画家列伝(1604年)によれば、本作には両翼が存在し、当時には紛失したとされる。

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【全体図】
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最後の審判の祭壇画 (Altarpiece of the Last Judgment)
1442-1451年 | 135(中央215)×560cm | 油彩・板(一部画布)
ボーヌ施療院

初期ネーデルランド絵画において最も影響力のあった巨匠のひとりロヒール・ヴァン・デル・ウェイデンの前半生の集大成的傑作『最後の審判の祭壇画』。ブルゴーニュ公宰相でオータン出身のニコラ・ロランが設立したボーヌ施療院に寄進された本作に描かれるのは、≪救世主イエスと大天使ミカエル≫部分を中央とした全9画面構成からなる≪最後の審判≫で、この救世主キリストによる人類の救済と断罪の場面を、ウェイデンの教義的精神性を追求した描写によって圧倒的な表現を為すことに成功している。救世主イエスの右手側部分は≪善≫を意味しており、本作でも天使によって天国へ導かれる救済された人類の場面が描かれている。同様に本作でも示されるよう、教義≪最後の審判≫において、救世主イエスの右手側部分には≪善≫の象徴として百合の花が配される。また救世主イエスの右手側部分には≪悪≫との戦いの象徴である剣と断罪され地獄へ落とされる罪深き人類の場面が配されている。このように宗教画としての慣例に則しながらも、ウェイデン独自の深い精神性を携えた他を圧倒する表現によって、今日まで画家屈指の傑作として広く人々に知られることとなった。なお本祭壇画の閉扉時にはグリザイユ画による≪受胎告知≫と≪聖セバスティアヌス≫≪聖アントニウス≫が中央に、左右には≪寄進者ニコラ・ロラン≫と≪寄進者の妻ギィゴーヌ・ド・サラン≫の肖像が配されている。

関連:最後の審判の祭壇画(閉扉時)

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キリストの埋葬 (Entombment of Christ) 1450年頃
110×96cm | 油彩・板 | ウフィツィ美術館(フィレンツェ)

初期ネーデルランド絵画の巨匠ロヒール・ヴァン・デル・ウェイデンのイタリア滞在を推測させる根拠となった作品『キリストの埋葬』。本作に描かれる主題は、磔刑に処され死したイエスの亡骸を聖母マリアやアリマタヤのヨセフ、ニコデモなど諸聖人で石墓へ埋葬する場面≪キリストの埋葬≫で、イタリアに始まったルネサンスフィレンツェ派の画僧フラ・アンジェリコが手がけた同名の作品『キリストの埋葬』と類似している点から、同作品に構想を依拠していると考えられている。ウェイデンがおこなったと推測されるイタリア絵画の研究の成果は、情緒的でありながら牧歌的にも感じられる風景描写や、初期ネーデルランド絵画の伝統に基づいた人物や各個所の写実性の中に示される新プラトン主義的な、後に死を超越する神の子イエス(の亡骸)の存在に対する神秘的で形而上学的な側面が研究者によって指摘されている。なお画面中央でイエスの亡骸を支えるニコデモはウェイデンの自画像とされているも、確証は得ていない。

関連:フラ・アンジェリコ作『キリストの埋葬』

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ブラデリンの祭壇画(ミッデルブルクの祭壇画)
(Altarpiece of Pierre Bladelin)
1452年以降 | 91×169cm | 油彩・板 | ベルリン国立美術館

巨匠ロヒール・ヴァン・デル・ウェイデン後期の重要作『ブラデリンの祭壇画』。ブルゴーニュ公の財務長官ピエール・ブラデリンが着手し建設したミッデルブルク市の慈善団体の聖堂へ同氏から寄進された本作には、中央に偽ボナヴェントゥーラの瞑想禄や黄金伝説に基づいた≪キリストの降誕≫が、左扉には≪皇帝アウグストゥスとティブールの巫女の前に現れる聖母子≫、右扉に≪東方三博士の前に現れるベツレヘムの星≫が描かれている。中央の主要部分の深い聖性を携えた聖母子の静謐な表現や厩の写実性に優れた描写も特筆に値するが、その隣に寄進者であるピエール・ブラデリンの姿も描かれるほか、右側後方の街の風景はミッデルブルク市の景観が描かれるなど、当時の様子が示される資料的価値も本作には含まれている。なお未熟な出来栄えからおそらくは工房の弟子が制作したと思われるグリザイユによる受胎告知が閉扉時の左右扉に描かれている。

関連:閉扉時『受胎告知』

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コロンバの祭壇画 (Altarpiece of St.Columba)1455-60年頃
138×293cm | 油彩・板 | アルテ・ピナコテーク

15世紀のネーデルランドを代表する画家ロヒール・ヴァン・デル・ウェイデン晩年の傑作『コロンバの祭壇画』。当時のケルン市長ゴーダート・フォン・デン・ヴァッサーファスによって聖コロンバヌス聖堂に寄贈(名称はこれに由来)され、ボワスレー・コレクションを経てルートヴィヒ一世が購入後、アルテ・ピナコテークに所蔵された、開扉を前提とした三連祭壇画である本作は、主要部分である中央に未来のユダヤの王である神の子イエスが降誕したことを新星の発見によって知ったカスパル(アジア)、メルヒオール(欧州)、バルタザール(アフリカ)の東方の三博士がイエスの下を訪れ礼拝する場面≪東方三博士の礼拝≫を配し、左翼部分に父なる神の意志によって聖子の受胎を告げる大天使ガブリエルと、聖告を受ける聖母マリアを描いた≪受胎告知≫の場面を、右翼部分に聖霊によって導かれていたエルサレムの老シメオンが律法に従い神殿へ訪れていた幼子イエスを抱き、神を称え救い主であることを宣言すると共に、後に降りかかる救世主イエスへの受難を予言する場面≪キリストの神殿奉献≫の場面が描かれている。本作に顕著に示されている曲線を多様し独特の緊張が緩和された表現はウェイデン晩年の様式の典型であり、本作はウェイデン晩年期の最も良い作例のひとつとしても広く認知されている。

関連:中央部分『東方三博士の礼拝』拡大図
関連:左翼部分『受胎告知』拡大図
関連:右翼部分『キリストの神殿奉献』拡大図

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