Introduction of an artist(アーティスト紹介)
■ 

フラ・アンジェリコ(ベアト・アンジェリコ) Fra Angelico (Beato Angelico)
1387-1455 | イタリア | 初期ルネサンス・フィレンツェ派




15世紀初頭より活躍したフィレンツェ派を代表する大画家。≪フラ・アンジェリコ(天使のような画僧)≫が彼の名として呼ばれるよう、人格者としても名高い(本名はグイード・ディ・ピエトロ)。ドミニコ会士であったフラ・アンジェリコの作品は、宗教的主題に限られている。師であるゴシック絵画の大家ロレンツォ・モナコより学んだ、ゴシック的である豪華で優美な表現に加え、初期ルネサンスの三大芸術家のひとりマザッチョの作品から空間・人体の三次元的描写を学び、鮮やかな色彩による敬虔で高潔な人物描写による独自の画風を確立。彼の直筆による真作は45点ほど確認されているが、現存する作品120点の内、工房作品も多い為、その判別は難しいとされる。

Description of a work (作品の解説)
Work figure (作品図)
■ 

受胎告知

 (Annunciazione) 1430年頃
フレスコ | サンタ・マリア・デレ・グラツィエ修道院

15世紀フィレンツェ派を代表する画家フラ・アンジェリコの傑作『受胎告知』。国際ゴシック様式的な豪華で優美な特徴と、鮮やかで輝きに満ちた色彩による画家独自の敬虔で高潔な人物描写が秀逸な本作の主題は、大天使ガブリエルによる聖母マリアへの聖胎の告知を描いた≪受胎告知≫で、フラ・アンジェリコは、生涯のうちに幾度も本主題を描いているが、最近、修復作業が完了した本作は、その最高傑作として名高い。他にはプラド美術館所蔵の≪受胎告知≫や、司教区美術館所蔵の≪受胎告知≫などが有名である。神の意志によるイエスの授かりを、敬虔で控えめな態度で真摯に受ける聖母マリアの表現は、国際ゴシックの特徴を色濃く残すプラド美術館版『受胎告知』と比べて、より優雅で人間味の溢れる表現が為されている。また画面左部には、父なる神の怒りによりエデンの園を追放されるアダムとエヴァが描かれ、聖胎した聖母マリアの子イエスが、人間の救済者であることを示している。また父なる神の三位である聖霊は、聖母マリアの頭上に輝きを放ち降臨している。

関連:1430-32年頃制作 プラド美術館版 『受胎告知』
関連:1433-34年頃制作 司教区美術館版『受胎告知』
関連:1438-46年頃制作 サン・マルコ修道院版『受胎告知』

解説の続きはこちら

【全体図】
拡大表示

■ 

受胎告知

 (Annunciazione) 1430-32年頃
194×194cm | テンペラ・板 | プラド美術館(マドリッド)

15世紀イタリアルネサンス史に燦然と輝くフィレンツェ派の巨匠フラ・アンジェリコの代表作作『受胎告知』。フィレンツェ北部フィエゾーレのサン・ドメニコ聖堂の為に制作された祭壇画のひとつであると考えられている本作に描かれるのは、主イエスの生誕に纏わる逸話の中で最も有名な話のひとつである、新約聖書ルカ福音書第1章に記された、父なる神の大いなる意思により、聖母マリアに対して無原罪にて神の子イエスを宿したことを大天使ガブリエルが告げる場面≪受胎告知≫である。前景として画面中央からやや右側へ描かれる≪受胎告知≫の場面は、左(画面ほぼ中央)へ聖胎を告げる大天使ガブリエルを、右へ軽く驚きつつも聖告を貞淑に受け入れる聖母マリアを配しており、その神々しく後期国際ゴシック様式の厳格性に富んだ表現は観る者を強く惹きつける。さらに明確な輪郭線と黄金色の使用による説明的な場面描写が本主題の聖性をより強調する効果を発揮している。一方、後景として本作の左側へは神の命により禁断とされていた知恵の実(知識の実)を食したことにより楽園を追放される≪アダムとエヴァ≫の姿を描き込むことで、神の子イエスの正統性と絶対性を暗示させている。また細部の描写や仕上げなど表現手法に注目してみると、フラ・アンジェリコ当人のみの制作ではなく弟子又は工房の手が加わっていることがほぼ確定的な本作ではあるが、ルネサンスの到来を感じさせる室内などの遠近的表現や画面全体から放たれる輝くような色彩の美しさなど特筆すべき点は多い。なお画面下部のプレデッラ部分には≪聖母マリアの結婚≫から≪聖母の死≫までと聖母マリアの生涯が描かれている。

関連:1430年頃制作 グラツィエ修道院版 『受胎告知』
関連:1433-34年頃制作 司教区美術館版『受胎告知』
関連:1438-46年頃制作 サン・マルコ修道院版『受胎告知』

解説の続きはこちら

【全体図】
拡大表示

■ 

聖母戴冠

 (Incoronazione della Vergine) 1434-1435年
240×211cm | テンペラ・板 | ルーヴル美術館(パリ)

フラ・アンジェリコの傑作『聖母戴冠』。キリストによって戴冠される聖母を描いた≪聖母戴冠≫を主題とする本作は、本来『フィエゾーレの祭壇画』、『受胎告知(プラド美術館版)』と共に、サン・ドメニコ聖堂(フィエゾーレ)に収められていた作品で、ナポレオン軍によってパリへと運ばれた経緯を持つ。またウフィツィ美術館には同主題で描かれた別の作品が収蔵されている。本作の主題≪聖母戴冠≫とは、死した聖母の魂が天へと昇華した聖母被昇天の後に、おこなわれた聖母の歴史上における最終場面で、父なる神(もしくは神の子イエス)から戴冠を受ける場面を指す。また本作画面下部には『聖母の神殿奉献』や『聖母の死(御眠り)』など聖母の生涯が描かれている。

関連:サン・ドメニコ聖堂『フィエゾーレの祭壇画』
関連:プラド美術館版『受胎告知』
関連:ウフィツィ美術館版『聖母戴冠』

解説の続きはこちら

【全体図】
拡大表示

■ 

影の聖母(聖母子と8聖人)

 (Madonna delle ombre)
1437-1450年
195×273cm | フレスコ | サン・マルコ美術館(フィレンツェ)

フラ・アンジェリコの代表的な聖会話作品『影の聖母』。本作の名称『影の聖母』とは通称であり、正式には『聖母子と8聖人(Madonna con il Vambino e otto santi)』とされる本作の主題である、聖母子を中心に諸聖人たちがその周りを囲む聖会話で、穏やかな聖母子の深い精神性を持った表現と、聖ドミニクス、聖コスマス、聖ダミアヌス、福音書記者聖マルコ、殉教者聖ペトルス、聖ラウレンティウス、聖トマス・アクィナス、福音書記者聖ヨハネなどの諸聖人の豊かな表現が白眉の出来栄えを見せ、一説には本作がフラ・アンジェリコの遺作のひとつとされる。愛しげに幼子イエスを見つめる穏やかな聖母マリアと、神性を意識され、神々しい姿をした幼子イエスが中央に配される本作は一説にはフラ・アンジェリコの遺作のひとつとされるが、制作年代については諸説唱えられており、現在も研究が進められている。

解説の続きはこちら

【全体図】
拡大表示

■ 

アンナレーナ祭壇画

 (Pala di Annalena) 1437-1440年頃
180×202cm | テンペラ・板 | サン・マルコ美術館

どの時代でもフラ・アンジェリコの代表的な聖会話作品のひとつとされる、傑作『アンナレーナ祭壇画』。メディチ家の守護聖人である聖コスマスと聖ダミアヌスが描かれていることから、メディチ家の注文によって制作された(又は関与した)とされる本作の主題≪聖会話≫は、ルネサンス初期より最も多く描かれ始めた主題のひとつであるが、本作は、その早い作例として知られる。神性と敬虔を兼ね備えた聖母マリアと幼子イエスの表現。本主題≪聖会話≫とは、同一の画面内に聖母子と諸聖人を描く主題で、ルネサンス初期より最も多く描かれ始めた主題のひとつである。画面左部分(左から殉教者聖ペトルス、聖コスマス、聖ダミアヌス)に描かれる聖コスマスと聖ダミアヌスはアラブア生まれの双生児で、病弱者に外科的医療をおこなったとされる聖人。医師や薬剤師の守護聖人のほか、メディチ家の守護聖人としても知られている。右から聖フランチェスコ、聖ラウレンティウス、福音書記者聖ヨハネが配された画面右部分の諸聖人たちmp優美な美しさと、高潔な人物表現が本作、そしてフラ・アンジェリコの大きな魅力のひとつである。

解説の続きはこちら

【全体図】
拡大表示

■ 

十字架降下

 (Deposizione) 1437-1440年頃
176×185cm | テンペラ・板 | サン・マルコ美術館

フラ・アンジェリコの手による代表的な祭壇画作品のひとつ『十字架降下』。元来フラ・アンジェリコの師であるロレンツォ・モナコへパッラ・ストロッツィから依頼されたフィレンツェのサンタ・トリニタ聖堂聖具室内ストロッツィ家礼拝堂のための祭壇画であったが本作の制作途中でロレンツォ・モナコが死去した為に、フラ・アンジェリコへ依嘱された作品であり、ゴシック様式の三連ピナクル部分(祭壇画中上部に配される三つの飾り尖塔)はロレンツォ・モナコの手によるものである。しかしながら中央部分に描かれる≪十字架降下≫部分は、トスカーナを思わせる牧歌的な風景に溶け込む神の子イエスの劇的な受難場面は、柔軟かつ情緒豊かでフラ・アンジェリコ独特の深い精神性を携えた聖性を感じさせる表現が用いられている。本作で表される場面≪十字架降下≫は神の子イエスが自らユダヤの王と名乗ったことから極刑にあたる磔刑(死刑)に処されるという、イエス受難場面の中でも特に重要かつ最も感動に溢れる場面で、本作ではアリマタヤのヨセフやニコデモによって十字架から降下されるイエスの亡骸を中心に、左部分にはイエスの御足に口づけをおこなうマグダラのマリアや悲哀に暮れる聖母マリアを始めとした諸聖人と天上には天使たちを、右部分には聖ヨハネ(以前は依頼主パッラ・ストロッツィの夭折した息子アレッシオ・デリ・ストロッツィと考えられていた)と受難具を手にする人々や天上に天使たちが配されており、そのどれにも画家の高い技量が示されている。

解説の続きはこちら

【全体図】
拡大表示

■ 

サン・マルコ祭壇画

 (Pala di San Marco) 1438-1440年頃
220×227cm | テンペラ・板 | サン・マルコ美術館

フィレンツェ派を代表する画僧フラ・アンジェリコ随一となる聖会話作品の傑作『サン・マルコ祭壇画』。当時絶対的な権力者メディチ家の当主であり、偉大な芸術家の庇護者でもあったコジモ・ディ・メディチの依頼によりサン・マルコ修道院の為に制作された本作は、玉座に鎮座する聖母マリアとその腕に抱かれる幼子イエスを中心に各諸聖人を配した≪聖会話(サクラ・コンヴェルサツィオーネ)≫の最も早い作例のひとつとして、画家の作品の中でも特に重要視されている。また聖母マリアと幼子イエスを中心とした諸聖人との統一性を示す空間構成と、国際ゴシック様式に見られた聖母子の黄金色景背から逸脱し現実味を感じさせる糸杉や柘榴の森の背景、遠近的手法によって奥行きを表現される幾何学模様の絨毯など、本作において画僧フラ・アンジェリコは至るところに革新的な表現を用いている。聖母子の左部分には聖ラウレンティウス、福音書記者聖ヨハネ、福音書記者聖マルコを、右部分には聖ドミニクス、聖フランチェスコ、殉教者聖ペトルスを配し、画面下部にはメディチ家の守護聖人としても知られている聖コスマスと聖ダミアヌスが描かれており、聖母子との間に、互いに意識に関係性をもたらしている。

解説の続きはこちら

【全体図】
拡大表示

■ 

キリストの埋葬

 (Deposizione nel sepolcro) 1440年頃
38×46cm | テンペラ・板 | アルテ・ピナコテーク(ミュンヘン)

フラ・アンジェリコが手がけた宗教画を代表する作品のひとつ『キリストの埋葬』。偉大な芸術家の庇護者でもあったコジモ・ディ・メディチの依頼によりサン・マルコ修道院の為に制作された、画家随一となる聖会話作品の傑作『サン・マルコ祭壇画』の中央プレデッラ部分として制作された本作は、磔刑に処され死したイエスの亡骸がニコデモやアリマタヤのヨセフ、聖母マリアを始めとする諸聖人らによって埋葬される場面≪キリストの埋葬≫を主題とする作品で、『サン・マルコ祭壇画』下部中央に配された≪キリストの磔刑≫に図応したものである。中央に死したイエスの亡骸と、それを支えるニコデモ、左にイエスの亡骸に寄り添う聖母マリア、右にイエスの御手に口づけするアリマタヤのヨセフを配し遠近法を用いた単純で明快な構図によって、死したイエスの肉体の尊厳と聖性を示し、アンジェリコ特有の色彩によって静寂を感じさせる静謐な雰囲気が画面全体を支配している。

解説の続きはこちら

【全体図】
拡大表示

■ 

聖コスマスと聖ダミアヌスの殉教

 1440年頃
(The Martyrdom of the Saints Cosmas and Damian)
36×46cm | テンペラ・板 | ルーヴル美術館(パリ)

画僧フラ・アンジェリコの三次元的空間構成と物語的な背景描写が見事に示される代表作のひとつ『聖コスマスと聖ダミアヌスの殉教』。偉大な芸術家の庇護者でもあったコジモ・ディ・メディチの依頼によりサン・マルコ修道院の為に制作された、画家随一となる聖会話作品の傑作『サン・マルコ祭壇画』のプレデッラ部分として制作された本作は、アラビアに生まれた双生児で、キリキアで医学を修得した後、病弱者や動物に外科的手術を含めた治療をおこない救済するも、ディオクレティア帝の迫害によって捕らえられ焚刑や投石などの刑に処され、最後は斬首によって殉教した双子の聖人≪聖コスマスと聖ダミアヌス≫の殉教場面を描いたもので、この双子の聖人はメディチ家の守護聖人としても知られている。本作では画面左部分に処刑者と聖コスマスと聖ダミアヌスに先立ち斬首された受刑者を、画面右部分には刑の執行を目撃する兵士たちを配し、中央には今まさに斬首されようとしている聖コスマスと聖ダミアヌスを描きこの伝説的な逸話を表現し、背後では立体的な要塞の壁と奥行きを感じさせる物語的な背景が描かれ本作を統一感に溢れるよう仕上げており、この背景中央に整列され描写される五本の樹木は斬首によって殉教した聖コスマスと聖ダミアヌスを含む五人の殉教者を表し、観者の目線が自然と聖コスマスと聖ダミアヌスに向くよう仕向けられている。

解説の続きはこちら

【全体図】
拡大表示

■ 

キリストの変容

 (Trasfigurazione di Cristo) 1437-1446年
193×164cm | テンペラ | サン・マルコ美術館(フィレンツェ)

サン・マルコ修道院(現美術館)の壁面に描かれたフラ・アンジェリコの代表的壁画のひとつ『キリストの変容』。サン・マルコ修道院の二階僧房にキリストの生涯を題材として描かれた本作の主題は、キリストが父なる神へ祈りを捧げるため、弟子の中から聖ペテロ、聖ヤコブ、聖ヨハネの三人を連れ、ガリヤラのタボール山へ登山した際、旧約における預言者のモーセとエリヤが現れ、変容したキリストと語り合う場面を描いた≪キリストの変容≫で、本作での大きな特徴は、絶対者として表現される光り輝くキリストの厳粛な神性にほかならない。フラ・アンジェリコは、その生涯に壁画を数多く描いたとされているが、特に重要視されるのは、サン・マルコ修道院(現美術館)の壁画と、ニッコリーナ礼拝堂(ヴァティカン)の壁画である。画面左部分に描かれる聖ペテロは預言者モーセと預言者エリヤ、そして二者と語らうイエスのために三つの仮小屋を建てることを申し出たとされ、その場面で、父なる神から「これは我が子(神の子)なり」とイエスを神の子と証する声を聞いたと伝わっている。画面中央に描かれた聖ヤコブは同じキリスト十二弟子のひとり福音書記者聖ヨハネの実兄で、元ガリラヤの漁師であった。イエスの十二弟子の中には、もうひとりヤコブという名前の弟子がいる為、主に彼は大ヤコブと称される。画面右部分に配されるキリスト十二弟子のひとりで、特に寵愛された聖ヨハネは、洗礼者聖ヨハネと区別されるため、主に福音書記者聖ヨハネと称される。

解説の続きはこちら

【全体図】
拡大表示

■ 

キリストの嘲笑

 (Cristo deriso) 1441-1443年
195×159cm | テンペラ | サン・マルコ美術館(フィレンツェ)

サン・マルコ修道院(現美術館)の壁面に描かれたフラ・アンジェリコの代表的壁画のひとつ『キリストの嘲笑』。サン・マルコ修道院の第七僧房に描かれた本作の主題は、逮捕された受難者イエスがユダヤの長老や学者、民衆達の前に晒され、大司祭カイアファに「お前は神の子か?」、「神の子ならば奇蹟を起こしてみせよ」と問われた後、偽証であるとし、民衆に磔刑を求められ嘲笑される場面≪キリストの嘲笑≫を描いたものであるが、本作において最も重要な点は、受難者イエスの超現実主義的手法によって象徴的に示される嘲笑表現にある。「誰であるか当ててみせよ」と強制的に目隠しをされ問われた受難者イエスを中心に、唾を吐きつける男の横顔や持っている木棒で殴りつける手など本主題でおこなわれたイエスへの仕打ちが非現実的な描写によって象徴的に示されている。このような信者(又は見る者)の瞑想性を感じさせる表現手法は当時としても非常に稀であり、敬虔で高潔な人物としても知られるフラ・アンジェリコの残した作品の中でも特に異質的な作品として、どの時代でも常に注目を受け続けてきた。なお画面下部には我が子イエスへの仕打ちを嘆く聖母マリアと、聖ドミニクスの姿が描かれている。

解説の続きはこちら

【全体図】
拡大表示

Work figure (作品図)


Salvastyle.com 自己紹介 サイトマップ リンク メール
About us Site map Links Contact us

homeInformationCollectionDataCommunication
Collectionコレクション